『偶然の恋、必然の愛』
【2】
銀色のため息
「用意はいいか? なら…え?」 宿を発とうと準備をしていたカイルが荷物を手にリィを振り返った格好で動きが止まった。 (まさかとは思うが…いや、でもリィならば…) 半ば答えは予想できるが、このままでいるわけにもいかない。 カイルは仕方なく重い口を開けた。 「リィ…ちょっと尋ねるが、もしかしてここまでその格好で来たのか?」 「ええ、そうですけど?」 カイルとしては予想していたものの、できれば聞きたくなかった答えだ。 額に手をやり、天を仰いだ。 反対にリィは何故カイルがそのような質問をし、自分の何にこのような反応を見せているのかがさっぱり判らない。 きょとんと見つめ返すこと瞬き三回分。 「…あ、あの、どこか変ですか?」 リィは体を捻って自らの姿をあちこち見てみたが、然程変なところはないように思う。 いくら初めての一人旅だとは言っても、旅装束はちゃんと調えた、つもりだったのだが… 「いや、服装は、いいんだ。別におかしくは、ない」 カイルの答えにほっとしたものの、では彼は何を言おうとしているのだろう? リィは自分で答えを出すのは諦めて、回答を待った。 「言っただろ、シーヴァの神官リーン・ディアナスは有名だと。あれは名前のことだけじゃない。その佳麗な顔、そして特にその月光を紡いだかのような銀の髪は人々の記憶に残りやすいんだ」 「顔と髪、ですか?」 両手を頬に当てながらリィは未だ納得のいかない表情をしている。 確かに「綺麗だ」と言われることは多々あったのだが社交辞令だと思っていたし、何より自分の見慣れた顔を自分自身特別な認識を持って見たことはなかったのだ。 納得がいかなくても仕方のないことだろう。 (よくここまで無事に来れたもんだ) 呆れと感心が半分ずつ入り混じった感想をカイルはもらした。 リィが背負っているらしい使命はあの様子からして恐らく秘密裏に運ばれるべきものなのだ。 だとすればその使命遂行を阻止しようとする者がいたとしても何ら不思議はない。 リィが引き返すのを拒んだ様子からして、彼自身追っ手がかかる可能性を危惧しているようだ。 「もし俺がリィを探すなら、人々にこう尋ねるな『見事な銀髪美人を見なかったか』と。これだけで俺はお前が辿った足取りをかなり正確に追うことができるだろうな」 「うっ…では一体どうすれば…」 美人という部分にはやはり納得しかねるものの、長い銀髪を目印にされれば確かに見つかりやすいかもしれない。 リィは髪を一房掴んでまじまじと眺めた。 「切るか目立たない色にしてしまうのが一番なんだが、そうもいかんだろう」 神官という職種の人間は位が上がれば上がるほど髪を長くしている者が多いし、色を変えるのは手間がかかる。 ならば… 「取り敢えずの手段としては隠すまでさ」 カイルはリィの背後へ回り、手の中に背中を無造作に流れ落ちる銀糸を集め、手早く一つに編んだ。 「これでよし」 髪の先を紐で縛りカイルは髪を外套の中へ入れるようリィに指示した。 「で、フードを被ってしまえば目立ちすぎることだけは避けられる。さぁ、行こう」 「はい」 旅慣れぬ人間との旅の大変さを思い知ったカイルだった…。 |
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