『憧れのびたーすうぃーと』
カクテル編
by 朝永 明
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楽屋で喋っていると話は尽きなくて。 それでも「いい加減、鍵閉めるぞ? ココに泊まる気なら止めないが」と佐伯に脅され一同揃って会場を出た。これから彼の馴染みの店へ行くことになったのだ。 先頭は案内役の佐伯と捕まってしまった東野、数歩離れて音楽談義に花を咲かせているらしい北山と昇、そしてさらに数メートル後ろで電話中の悟が続く。 佐伯&東野 佐「お前があんな美人と付き合ってるとはねぇ」 東「いや、あの、その……」 佐「一体どんなきっかけだったんだ?」 東「えっと……あ、俺さ、佐伯がイベント会社やってるなんて知らなかった」 佐「は?……お前、知ってたから俺にチケット頼んだんじゃねーの?」 東「いや、最初は悟に頼もうかと思ったんだけど…三兄弟、じゃなくて今は四兄弟か。あいつらが海外へ出たって聞いたから」 佐「出たのは守だけ。後は日本メインの出たり入ったりだ。一体どこからそんな誤情報を仕入れたんだよ?」 東「さぁ…」 佐「……お前、そんなんでよくあの美人と付き合うに至れたよな」 昇&北山 北「今日の演奏、とても素敵でした」 昇「ありがとうございまーす」 北「特に、第一楽章のタラリラ〜と上がっていく辺りが好きです」 昇「ああ、あそこ! あそこは弾いててとっても気持ちいいですよ〜」 北「それから、第三楽章で極限まで抑えた音とか」 昇「そこは中々合わなくて苦労しましたぁ〜」 北「でもぴったり嵌るとゾクゾクします」 昇「ふふふ…結構聴き込んでますねぇ。そんな音楽が好きな北山さんと本好きの館長はどうやって仲良くなったんですか?」 北「それは……犬…」 昇「は?」 北「いいえっ、何でもありません。ご想像にお任せします」 昇「ちっ、かわされたか…」 悟@電話中 「僕だけど…ありがとう。上手くいったよ……それでね、今から飲みに行こうって話になったんだけど…いや、だからさ、場所言うよ?」 等々。それぞれの会話に夢中になる内に目的地着。 10人も入れば満員になる程度の店なので、今夜は彼らの貸切となっている。 誰が進行役となるべきか(主に佐伯と悟の間で)軽く押し付けあったものの、興行主である佐伯が立ち上がることでその場は落ち着いた。 佐「今夜の演奏会の成功と…再会を祝って、乾杯」 全「乾杯」 北「東野くんと皆さんがお知り合いだったとは、驚きました」 東「いや、だから…」 昇「館長、言わなかったの?」 北「それどころか、聖陵出身というのもチケットを受け取った直後に初めて聞いたんですよ?」 佐「それも言ってなかったのか!?」 東「その…お前らと違って、俺は」 悟「『一般人だ』か?」 佐&昇「懐かしい〜」 東「うっ…」 北「ぷっ、くっくっくっ…」 東「せ、先輩っ!」 北「ごめん、ごめん…」 東「もう、いいです…好きなだけ笑ってください」 昇「やっぱ気になる」 悟「何が?」 昇「館長〜、ちょっとこっち来て〜」 昇といじけた東野、離脱。 悟&佐伯&北山 北「あ、拗ねちゃいましたか…」 佐「いや大丈夫でしょう」 悟「昇が用事あったみたいですし」 北「じゃあ、今の内に。笑いましたけど…僕としましては彼と接点のなさそうな皆さんが親しくしていたと言う方が驚きに近いのですが、どうだったのですか?」 佐「この中で最初に友達になったのって…お前だったっけ?」 悟「うん。中1で同じクラスだったんですが、完治はゴールデンウィークを過ぎてもクラスに馴染む気配がなかったので、担任の先生に様子を探ってくれと言われまして」 北「彼がクラスに馴染まない、ですか?」 悟「ええ。休み時間も一人自分の席から動かないので、様子を見に近寄ったら…読書中でした」 北「は?」 悟「何とも話しかけ辛い集中力で読書中だったんですが、僕も担任から頼まれているので意を決して話しかけたんですよ。そしたら『ここの図書館は本が一杯あっていいね』と」 佐「ぷっ…それはそれは、わんこが骨を貰った時のような顔してたんだろ?」 悟「本人のためにも、その辺は伏せておくよ」 北「やはり犬…」 悟&佐「え?」 北「いいえ、なんでもありません」 悟「それ以来オススメを教えてもらったり、貸してもらうようになったと言うわけです」 佐「俺としましては、そんな東野と北山さんが親しくなるに至った経緯が気になりますが?」 北「それは、簡単ですよ」 佐「え?」 北「僕は彼が入社して以来の指導係ですから」 悟「そうだったんですか」 佐「ウマくかわされたか…どした、昇?」 昇「ちょっと」 離れていたはずの昇に袖を引かれ、佐伯退場。 昇&東野 昇「ねぇねぇ、館長〜いつから付き合いだしたの?」 東「う、いや、その…」 昇「教えてくれなきゃ、ちゅーするよ?」 東「うわ〜〜〜っ、わかった、わかったから、膝から下りろっ!」 昇「で、いつ?」 東「…バレンタイン」 昇「この間の?」 東「そう」 昇「館長が、ちょこ貰ったの?」 東「それは……俺、トイレっ」 昇「ちっ、逃げた」 一人残された昇、別の島にいた佐伯の手を引き、店の角へ。 悟&北山 北「…何をやっているんでしょうね、彼らは」 悟「落ち着きのない奴らで、すみません。でも…昇が完治に懐いているのは『大型犬』にじゃれているのと大差ありませんから」 北「……やだなぁ、顔に出ていましたか?」 悟「そんな気がしただけです。昇にはちゃんと『ダンナ』がいますので、心配ご無用です」 北「…ダンナ、ですか?」 悟「ええ」 昇&佐伯 昇「二人とも口が堅いであります、司令官殿」 佐「そちらも収穫ナシか…致し方あるまい。W作戦を決行する」 昇「W作戦でありますね、らじゃー!」 その場を離れる昇と入れ替わりにやって来た東野。 東「こんなすみっこで何やってるんだ?」 佐「ちょっとな。明日の打ち合わせとかだよ」 東「明日もあるのか、大変だな」 佐「慣れてるから平気だ」 グラスを両手に持って戻ってきた昇に「程々にしとけよ」とだけ言い残して佐伯その場を離れる。 昇「館長〜ごめん、僕さっき間違って館長の飲んじゃった。はい、コレ代わりね」 東「あ? いいよ、さんきゅ。俺は明日休みだからいいけど、お前明日もあるんだろ?」 昇「僕? へーき、へーき。こんなの飲んだうちに入んないよ」 東「そういや、昇は強かったっけ」 昇「まぁね…ところでさぁ、館長」 東「ん?」 昇「大学ん時は彼女、彼氏でもいいけど、いなかったの?」 東「ぶっ!」 昇「ねぇねぇ、北山サンには喋らないから教えてよ?」 東「……なくは、ない」 昇「どんな、どんな?」 東「いや、至って普通のコだったと、思うけど…」 昇「普通って…好きだったんでしょ?」 東「それが、その…」 昇「もしかして、コクられたから何となく付き合った、とか?」 東「うん、まぁ…」 昇「あちゃ…じゃあ、長続きしなかったんじゃない?」 東「さすが、よくわかるな……付き合い始めるだろ。そしたら誕生日やクリスマスまではどうにかできたんだけど、『付き合い始めたのが何月何日』だとか、『ファーストキスが何月何日』だとか、コトあるごとに言われるんだ。けど、そんなの全部憶えてられるか?」 昇「あ〜ちょっとムツカシイかな」 東「だろ? で、挙句の果てに『私のことは憶えてないくせに、本の発売日だけは憶えているのね』となるわけだ」 昇「あらら、大変だったねぇ」 昇、東野の頭を撫でる。 悟&北山&佐伯 北「指揮者がご覧になっている楽譜って、全てのパートが書かれているのですよね」 悟「ええ」 北「それを一瞬で読んで指揮されているなんて…すごいです」 悟「演奏会だけをご覧になれば一瞬で全てを見ているように見えますが、実際にはそこに至るまでの譜読みや全体練習で必要なことは頭に入れてありますから」 佐「確かに、一つの楽器だけをやってると『全部が入ってる指揮者の頭ん中ってどうなってんだ?』とは思うな」 北「佐伯さんも管弦楽部のご出身と彼から伺いましたが…」 佐「俺はフルートです。でも高2の時に1コ下に『すんごい』のが入ってきたんで、その時からコイツのバックアップが俺の一番の役目です」 悟「お前じゃなきゃ、僕はやって行けなかったと思うけど?」 佐「聖陵のカリスマが何を仰いますやら」 北「…いいですね、そういう関係」 悟「(邪なイミはないんだろうけど、ちょっと、イヤ)…僕としては北山さんや完治のように会社勤めの方が大変じゃないかなと思いますが」 佐「俺も真っ当な会社員だけど?」 悟「お前はいいの。苦労するのは下の人だろ…通常、社員は上からの命令で動くけど、場合によっては自分で判断して行動しなければならないことがありますよね?」 北「ええ、まぁ…上の判断を仰いでいる時間がないことも、あります」 悟「ですが、それに『リハーサル』などないでしょう?」 北「ないですね」 悟「僕たちも本番中に予定外の出来事が起きることもありますが、それも想定した上でバックアップしてくれる人が沢山います。だから安心して舞台に登れる」 佐「オレサマのおかげだな〜」 悟「はいはい、感謝してますって。…北山さんにとって完治は『縁の下の力持ち』という存在なんですか?」 北「僕にとっての彼、ですか?…支えてもらうだけでも、引っ張っていくだけでもなく…横に並ぶべき存在になって欲しい者、でしょうか?」 佐「おぉ〜……ん、そろそろかな? 完治ーっ」 声を上げると同時に隣に座る北山の手を取る佐伯。 佐「お前の大事な先輩は預かった! 返して欲しくば」 馴れ初めを教えろ、と続く予定だったのだが。 東「先輩は俺のっ!」 だだだーっと佐伯のいる反対側へ駆け寄ったかと思いきや、肩をガバっと抱き込んで叫んだ東野に一同目が点に。 寄らば噛み付かんばかりの異様な雰囲気に誰もが声を出しそびれていたのだが… 『こんばんは〜』←真打登場!(笑) 東「…な、づき?」 葵「お久しぶりです、東野先輩」 東「お前…相変わらず、可愛いなぁ」 葵「…ありがとうございます…じゃなくって、一体どうしたんですか?」 東「え??」 葵「えっと…そちらは先輩の大切な方ですか?」 東「そちら?…ああ、うん、そう。俺の…大事、な……」 葵「初めまして。東野先輩の1コ下の…葵です」 北「…同僚の北山です」 一方は抱きしめられたまま、もう一方はその不自然さをモノともせず婉然と挨拶を交わす様は、他の者を追い払うのに十分な迫力で。 管弦楽部卒の三人は静かに別の島へと移ったのだが。 葵「東野先輩?」 東「……」 葵「寝てる?」 北「みたいだね」 葵「その体勢のままじゃ辛いですね…支えてますのでそこに座ってください。…でも膝は貸してくださいね」 東野を支え、北山を座らせるとその膝に東野の頭を乗せる葵。 北「お手数おかけして申し訳ありません。こういうことに慣れていらっしゃるのですか?」 葵「僕は酔わない体質なので、いつも介抱する側なんです」 北「そうですか…では、お礼に奢りますからどんどん飲んでくださいと言ったら僕が破産してしまいそうですね」 葵「いえいえ、僕の分は…アチラの『原因』に請求書回しますからお気遣いなく」 北「くすくす…ですが、それでは僕の気がすまないのですが?」 葵「でしたら…この『アイスクリーム盛り合わせ』を頼んでもいいですか?」 北「ええ、勿論!」 葵「わーい」(注文中) 北「お好きなのですか?」 葵「はい。厳密に言えばパフェのように色々入ってるのが好きなんですが…」 北「パフェ! いいですね…僕も好きですよ」 葵「ホントですか!?」 北「ええ。僕としましては『ビターチョコとバニラアイス』のように対極の味が同じ器に盛られているのが好みです」 葵「うわ〜〜それじゃあ『抹茶パフェ』はどうですか?」 北「抹茶、ですか?」 葵「…嫌いですか?」 北「いえいえ! そうではなく、残念ながら食べたことがありませんので…」 葵「もったいないです! よかったらこの辺りの美味しいお店、ご紹介しますよ?」 北「嬉しいです…あ、でしたら今度お暇な時にでもご一緒にどうですか?」 葵「わーい、行きます! (注文のアイス到着)いただきまーす…おいしぃ〜北山さんもどうぞ。で、僕の予定はですね…」 北「あ、本当。コレ美味しいですね」 一つの器のアチラとコチラからアイスの山を崩しにかかりながら計画を練る二人。 悟&昇&佐伯(頭つき合わせてヒソヒソと) 悟「お前ら、何やったんだよ?」 昇「…館長にワインクーラー飲ませた」 悟「また、そんな、恐ろしいモノを…あの『惨劇』を忘れたわけじゃないだろ?」 昇「だってさぁ、あんまり口堅いから…」 佐「馴初めを聞き出すだけのつもりだったんだが…まさかああ出られるとは思わなかった」 昇「うんうん」 悟「…まぁ、確かにあの反応はちょっと完治らしくなかったかな」 佐「それと…」 悟「北山さんの反応、か?」 昇「やっぱりちょっと、おかしいよね?」 佐「知り合ってまだ数時間だし、変だと言い切ることもできないんだが…」 悟「あそこで固まるタイプの人じゃないと思う。それにあの表情」 昇「『好きな人に抱き締められて嬉しい』でもなければ『公衆の面前で恥ずかしい』でもないし、『後輩の乱行を怒る』でもない」 佐「強いて言うなら『困惑』だな」 昇「北山さんって、実は館長のコト好きじゃないのかな…」 悟「あ、それは大丈夫だと思う」 佐「その根拠は?」 悟「昇が完治の膝に乗ったのを見てムッとしてたから」 昇「え〜僕そんな気ないよぉ」 悟「わかってる。そこはちゃんと説明しておいたよ」 昇「ありがと、オニイサマ」 佐「この話、どう転ぶかわからないが、完治がSOS出してきたら手を貸してやれるようにしておこう」 悟「そうだな」 昇「うん!」 佐「ところで悟…お前の大事な弟が年上美人にアイスで懐柔されてるっぽいがアレも貸しておくか?」 悟「あ」 昇「二人ともそんな気ないんだから、目くじら立てちゃダメだよ、オニイサマ」 悟「うっ…」 |
こうして処々方々疑惑を残しながら、夜は更けてゆくのでありました (ちゃんちゃん) |
大型ワンコの成長物語(?)いかがでしたでしょうか(笑)
次回は『惨劇編?』
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