幕間 「Carnival〜聖陵祭」
【3】
練習もかなり佳境に入ってきたある日、篤人くんが覗きに来た。 これまでも、連日OBの先生たちが噂を聞きつけて入れ替わり立ち替わりやってきては――翼っちも当然来た――『ほんとだ。悟と奈月がやってるみたいだ』って驚いて帰ってくんだけど、やっぱり篤人くんも目を丸くしたんだ。 そして同じ事を言った。 「…悟先輩と奈月がやってるのかと思った……」 やっぱりそんなに似てるんだ。 あれ? 浅井先生だ。 ああ、早坂先生が引っ張ってきたんだ。 「いや、マジで悟先輩と葵だからさ」 「そんなに?」 そして先生は、教室に入るなり呟いた。 「…え。なんか、恐ろしいな…」 「な、オソロシイほど似てるだろ?」 「ああ…。いや、普段の渉と英を見ていても、面立ちだけは似てるけれど、立ち居振る舞いは全然違うから、そんなに重なって見えることはないんだけどな。こうやって普段と違うことをしていると、なんか不思議を通り越した感じだな」 悟さんと葵さんの『普段』をよく知ってる浅井先生が言うんだから、これはもうかなりってことだ。 それから、僕たち5人の『脚本・演出チーム』の隣に陣取って、先生たちが懐かしそうに話をしていたんだけど…。 「葵のジュリエットを悟先輩相手で見たかったってヤツ、多かったからなぁ」 早坂先生が唸る。 「縦割りの同じクラスになることなかったんですか?」 3−Eの委員長が先生に聞いた。 いくら見たいカップリングでも、縦割りで同じクラスにならなければ共演はかなわないから。 「…いや、なってる。悟先輩が3年の時、葵と浅井先生は共演してるよ」 『なっ』と、早坂先生が話を振ったのは、浅井先生。 瞬間、先生の顔がピクッと引き攣ったように見えて…。 「ぷっ」 篤人くんが吹き出した。 そもそも篤人くんが吹き出すってのが珍しくて――校内ではクールが売りの篤人くんだから――周りにいた生徒たちがざわめきだした。 「それって、何されたんですか?!」 もう、ワクワクが止まらないって感じ。 「それがな〜」 同じくワクワクと早坂先生が口を割ろうとした時。 「早坂先生…」 絶対零度の声で、浅井先生が横目で早坂先生を射貫く。 隣では篤人くんがますます笑い出してて。 「古田先生も…何笑ってるわけ?」 低い声で浅井先生が言うと、篤人くんってば、『いや、なんでも』とか言いながら、余計笑ってるし。 早坂先生はいつでもテンション高くて明るい人なんだけど、クールビューティの篤人くんは堪えきれない様子で笑い出すわ、普段は柔らかいハンサムの浅井先生が威嚇の表情でワイルドになるわ…で辺りの生徒たちはみんなドキドキ。 でも、『先生のこの様子では、よほど知られたくない内容に違いない』と、こういう事にはとてつもなく聡い生徒たちが気づかないはずはない。 もちろん僕は知ってるけど、バレるのは時間の問題かも。ふふっ。 浅井先生は、目顔で早坂先生に『喋るなよ』と釘を刺して、『古田先生ちょっと…』って、篤人くんを引きずっていってしまった。 篤人くん、首謀者だもんねえ、あの源氏物語の。 浅井先生と篤人くんを見送って、早坂先生がまた、ウキウキと言う。 「まあ、OB教師がみんな、『悟先輩と葵が見たかった』っていうのも無理ないさ。あの当時は、『浅井祐介と奈月葵』っつったら、3年間不動のカップルで、『ロミジュリ』もやったからな」 そう、管弦楽部の生徒ならみんな知ってる。 2人が同室で同じフルートのワンツーで、いつもずっと一緒の『親友同士』だったこと。 「え、それって今もですか?」 副委員長がきいた。 「何が?」 「だって浅井先生ってあんなにかっこいいのに未だに独身じゃないですか。だから、もしかして奈月さんが恋人なのかなって」 まあ、そこは確かに思うところだろう。 「さあなぁ、そこはわかんないなぁ。ま、少なくとも今現在一緒に住んでるとか、そんな事実は全くないからな」 早坂先生はとぼけたけど。 僕は、センセは知ってると見た。浅井先生の本当の恋人を。 「ともかくあの時の浅井先生と葵のロミジュリは凄くてさ、それまではみんな可憐に演じることばっかり考えてたけど、葵のジュリエットは違ったんだ。 『やだって言ってんのにやらせるんだから、好きに役作りさせてもらうからねっ』…なんて言い放って、それで完成したのは、やたらと勝ち気で、かなりドSなジュリエットでさ〜。 そんなジュリエットに振り回される浅井先生が、途中でうっかり演技忘れて素に戻って言い返しちゃったりでバカ受けでさ。 ともかくあの時の舞台は『新解釈』とか『新境地』なんて高評価で、2人は堂々の男女主演賞だったわけだ」 先生の『思い出裏話』に、みんなワクワクと聞き入って、『それ見たい〜』なんて盛り上がってる。 ま、浅井先生にとっては、2年も3年も、黒歴史に違いないだろうけど。 結局練習を最後までみて、今日は久しぶりにヒマだからと片付けまで手伝ってくれた早坂先生と、教室や備品庫の鍵を戻しに行きがてら、僕はゆっくり話す時間を持った。 こんなの、中等部生徒会以来だ。 僕が会長をしていた時、中等部生徒会の顧問をしてたのが早坂先生で、『何かあった時の責任は俺が取るから、安藤は好きなように暴れろ』って言ってくれて、凄く嬉しかったんだ。 高校寮と教職員寮の別れ道までゆっくり歩きながら、近況報告なんかをしていたんだけれど…。 「先生、さっきはああおっしゃってましたけど、ほんとはご存知なんじゃないですか?」 「ん、なにを?」 急に話題を変えたけど、先生はなにを?…と言いつつもわかってるようで。 「浅井先生の恋人のことです」 「相変わらず察しが良いというか、鋭い観察力だな、安藤」 早坂先生がニヤリと笑う。 「いえ、奈月さんは直接存じ上げてないので知りませんけど、浅井先生のお相手には心当たりがあるんです」 「へ〜」 「管弦楽部には外部講師も来られますから」 先生が目を丸くした。 そして…。 「ふふっ、安藤、やっぱりお前、コワいな」 って、センセ、そんなに嬉しそうに言わなくても。 「ちなみにですが、僕の高1の時の担任についても、恋人の存在に心当たりアリです」 「…えっ、マジで?」 先生ってば、ちょっと慌ててる? 「ええ。なんか羨ましいくらいラブラブじゃないかと」 「見ててわかる…くらい?」 「僕は…ですけど。でも、あくまでも憶測です、確信じゃありません。そうだったら嬉しいな…って、希望的観測ってことで」 言外に『ご安心を』と匂わせば、早坂先生はまた、小さく笑った。 「ほんと、安藤って、マジでコワい」 でも、本当にそうだったらいいなって、僕は思ってるんだ。 森澤先生も早坂先生も大好きだし、お似合いだなぁって思うから。 「でさ、そういう安藤はどうなわけ?」 「僕、ですか?」 どうして僕の話になるのかと思えば…。 「ここへ来て5年目。未だに『難攻不落の美少女』継続中か?」 「え〜、先生までそんな都市伝説もどきをご存知なんですか」 どうせなら『120%玉砕』の方がかっこいいのに。 「だってさ、俺、お前が会長やってる頃に10人くらい慰めたぞ」 「は?」 なにそれ。 「安藤に告ったら、さっくり振られたって泣きつかれてさ」 ってさ、振られたからって、普通先生に泣きつくか? ま、早坂先生はそういう点でも話しやすくて、相談にのってもらいたくなるタイプだけど。 「僕、オコサマ苦手なんです」 もちろん冗談だけど、先生にもバカウケしちゃったよ。 「やっぱ、安藤って、面白すぎ〜」 先生たちも、きっとたくさん悩んでいろんな壁にぶち当たりながら、今の幸せを掴んでるんじゃないかなって思う。 だから、僕らオコサマは、ちょっと遠くで憧れていればいいだけだ。 そう、幸せそうなあの人を、見てるだけで、いい。 そうして後日、祇園の舞妓さん――桂のお母さんだ――すら唸らせたという、浅井先生の絶品『紫の上』の写真が出回るに至って、早坂先生と篤人くんは、『浅井先生に恨まれたぞ』なんて、ものすごく嬉しそうに話してた。 ☆★☆ ついに演劇コンクール当日になった。 衣装と鬘合わせはしてあるけれど、メイクが入るのは今日だけで、一応完成までは相手役の英も見られない、極秘厳戒態勢で準備が進められている。 ちなみにドレスの丈はちょっとだけ短くしてあって、くるぶしが見える程度。 どうしてかというと、本当は練習の時からロングスカートをはいてやった方が裾捌きとか確認できて良かったんだけど、絶対イヤだって渉がゴネるもんだから、ずっと制服のままやってて、これだと渉のことだから本番で裾踏んで転けるに違いないって思ったから。 渉も、去年の白雪姫の時はここまでゴネなかったんだけど――最後の方はもう、諦めモードで『好きにして』って感じだったから――今年はやけに抵抗する。 多分、英の所為だろう。 英が終始ノリノリだった、その反動に違いない。 「安藤〜、出来たから確認して〜」 3年の美術部長の声がした。 「はーい」 呼ばれて暗幕の向こうへ行ってみれば…。 「わお。」 「…なにが、わお。だよ」 美しすぎるジュリエットが口を尖らせた。 そんな顔すら美しくて、これはもう、万人が恋しちゃいそうな感じ。 渉って、おでこを全部だすと、『美少女と美少年のボーダーライン』から一気に美少女よりになっちゃうんだ。 しかも、クリッとした可愛い目をそのままにしないで、わざわざ少し切れ長にアイメイクを入れているから、いつもより少し大人っぽい。 『大人の入り口にさしかかった少女』ってところかな。 さすが美術部長。わかってらっしゃる。 ふふっ、英、どんな顔するだろ。 「英〜、入っていいよ〜」 呼べば、こちらもすっかり支度がすんで、設定よりも貴公子然としていて、これは次の人気投票でNKを抜くんじゃないかって感じ。 ま、このガッコのダントツ1位は万年浅井先生だけど。 「……」 あらま、英ってば固まったよ。 それを爆笑の前兆ととったのか、渉が珍しく先回りして釘を刺した。 「笑ったら承知しないからね」 その言葉に、固まっていた英は、ふわっとほどけて微笑んだ。 「笑わないって。こんなに綺麗なんだから、自信持てって」 言われて渉が、がっくり疲れた表情で『なんの自信だよ…』って呟いた。 そんな渉の側で、『ちっ、惜しいことしたな』って英が呟いたの、僕は聞き逃さなかったけどね。 練習ではあれだけ暴れた渉も、本番ではさすがに神妙に演じてて、やれば出来るじゃんって感じ。 抱き上げられてベッドに運ばれるシーンは、マジで恥ずかしかったんだろう、英の首に回した腕の中に顔を埋めてしまって、それがかえって自然な初々しさを演出してしまい、客席からは声にならない悲鳴が上がっている。 さ、そろそろ1番の見せ場。キスシーンだ。 後ろから抱きしめた英が、渉を仰向かせて上からキス………え? えええええ!? 客席が絶叫に包まれた。 英……やっちゃったよ。おい。 や、今まで『本当にやっちゃった』ってのは『数え切れないほど』って聞いてるし、実際去年もあったけど、うちのロミオとジュリエットは一応兄弟だし。 今までも兄弟共演はさすがに少なくて、しかもそこまでやっちゃうってのは多分…いや、まず無いだろう。 って言うか、マジ禁断になっちゃったよ。 禁断『風味』のはずだったのに。 …あらま、渉、魂抜けてるし。 直也と桂、見てないだろうな…。見てて乱入でもされたらコトだし。 あ、よかった…ここで暗転だった。 結局、その後開き直ったのか、どこかキレちゃったのかは定かで無いけれど、渉まで熱演になっちゃって、僕たちオールE組の『ロミオとジュリエット』は、男女主演賞・男女助演賞に、作品賞も脚本賞も演出賞も美術賞も技術賞もその他も総なめの、史上初の完全勝利を成し遂げた。 「やったね、渉。去年の雪辱果たせたね」 早々に化粧を落として衣装を脱いでる渉に声を掛けると、今まで聞いたことがないような不機嫌な声で返事が飛んできた。 「なんの?」 「主演女優賞に決まってんじゃん」 ぶうっとふくれて、『いらないよ、そんなもん』って超ご機嫌斜めなんだけど、ごめん…そんな顔も、可愛いし。 あ、ちなみにその後、直也と桂のどん底落ち込みぶりは、鬱陶しいを通り越して可哀想なくらいだった。 ヤツらがどこであのシーンを見てたのかは知らないけれど、『オペラ座の怪人』も完成度が高くてかなり評価が高かったのに、そんなものすでに彼方の果ての果てって感じでさ。 ま、英としては、復讐計画が100%遂行出来て大満足ってところだろう。 オマケに美味しい思いも出来たことだし。 そう言えば、水野も派手に落ち込んでたけど、あいつ、多分英に恋してるんじゃないかな。 並んでチェロ弾いてる姿なんか、結構絵になっててお似合いだと思うけど、この調子じゃ、英の『お兄ちゃんラブ』はまだまだ先が長そうだな。 ☆★☆ ポスターコンクールは、演劇コンクールの翌日から2日間、一般公開スペースで展示されて、一般投票まで行われることになった。 演劇コンクールが一般非公開なので、校内行事の紹介を兼ねて…と言う名目なのだが、実のところ、あまりのクオリティの高さから一般公開を決めたのは、学院の最高責任者である院長だ。 管弦楽部の華やかさの割りを食っている感はあるのだが、文化部の中でも写真部と放送部は多数のプロを排出している伝統ある部活動で、機会を捉えてそれらを紹介するのは、教育者としての義務だから…と言うことだ。 そして、一般入場開始前の、理事会及び関係者ヘの先行公開の場に、元ダンナから理事を引き継いだ美人がいた。 後ろから、頭一つ大きい英が渉を抱きしめていて、上半身を捩った渉が顔を上げてうっとりと英を見上げている。 その瞳はとろんと溶けていて、つやつやのくちびるはふわっとほどけていて、今にも英のキスが落ちてきそうなところ。 そして渉の片手は英の頬に伸ばされていて、愛おしそうに撫でている。 孫2人が写るとんでもないポスターを前に、唖然としているのは、ピアニストの桐生香奈子。 演劇コンクールの内容もポスターコンクールの内容も知らずに、単なる『理事の視察』という義務でやってきたこの場で、こんなものを見ることになろうとは。 何事にもクールな英がこういうことに参加しているのもそこそこの驚きだが、それ以上に、あの引っ込み思案で人見知りの渉にこんな事が出来るのかと衝撃を受けている。 今年の春、渉が生徒指揮者になると聞いた時以上だ。 音楽に関しては、どんな変貌があっても覚悟はしているつもりだったが、こういうことで驚かせてくれるとは夢にも思わなかった。 息子たちはかつて、それぞれに『ご活躍』だったが。 ――うちの孫たち、もしかして芸能界へ入れてもいけちゃったのかしら…。 渉の性格では無理なことくらい承知だが、とりあえずこのポスターはどんな裏の手を使ってでも入手しなければ…と、頭の中でその算段を練っていると、ポンと肩を叩く者がいた。 いつの間にか後ろにいたのは、目の前のポスターの中で、あろうことか兄を愛おしげに見つめていた英だ。 「あら、すぐる…」 危うく語尾に『ん』をつけてしまいそうなのを、寸でのところで思いとどまった感がアリアリだが、そこは敢えて突っ込まない。 「祐介が、グランマ来てるからって」 行ってこいと言われてやってきたようだが、渉の姿はない。 「わたちゃんは?」 「このポスターを前にして会う勇気がないってさ」 香奈子が吹き出した。 「わたちゃんらしいわね」 やっぱりあの子はあの子らしいままだと、どこかホッとしている自分がいて、可笑しくなる。 「それにしても、よくこんなこと出来たわね、あのわたちゃんが」 「まあ、素直さにつけ込まれたってとこかな。いろんな方面から」 その『いろんな』にはもちろん自分も含まれるが。 その言葉に思い至ることがあるのか、ふふと笑って、香奈子はそれにしても…と、もう一度しげしげとポスターを見る。 「一瞬、悟と葵かしらって思ったわ」 「ああそれ、ほとんどの先生に言われた」 「やっぱりね」 親が見間違うくらいなのだから、やはり相当なのだ。 「それにしても、写真ってコワいよな」 「どういうこと?」 普段と違う写りをすることかと思ったら。 「これ、俺たちが吹き出す2秒前くらいの奇跡のショット」 「あら、そうなの?」 「だって、渉なんて無理に身体捩ってるから、腹筋プルプルでさ、その状態で安藤先輩が『視線が外れてる』とかダメ出ししてくるし、『キス待ち顔になってない』とか『指先まで愛が来てない』とか言われてるうちに、雰囲気出し過ぎて自分たちで可笑しくなっちゃってさ、堪えきれずに吹き出しちゃったってわけ」 「あら、仕掛け人は和真くんなのね」 見かけは葵よりも渉よりももっと美少女だったけれど、少し話をしただけでも、相当中身がしっかりしていることは見て取れた。 しっかりしているだけではなくて、ユニークな子であることもこれでわかったが。 そう、構図を決めて、撮りの当日も細かくポージングを指導したのは『黒幕』和真だ。 出来上がってみれば、高校生にあるまじきエロさになってしまった感もなきにしもあらずだが、写真部部長の腕の高さからか、芸術性が評価され、院長の光安直人をして、『安藤はこういう才能もあるんだな』といわしめた。 「あの人ってほんとに策士だけど、案外可愛いとこもいっぱいあって、結構目が離せないかな」 英の言葉に、香奈子が目を瞠った。 渉や奏以外の誰かのことを、こんな風に英が語るのを初めて見たのだ。 渉だけでなく、英もまた、ここへ来てゆるやかな心の成長を始めているのだと、香奈子は頬が緩むのを止められなかった。 ちなみに。 裏価格高騰が予想された『ロミオとジュリエット』のポスターは、結局一枚も見つからず、どうやらNK親衛隊が回収して廃棄したらしいと、和真だけが突き止めていた。 ――ヤツら、これで抹殺した気になってるようだけど…。僕は、浅井先生のとこに何枚かあるの、知ってるけどね。香奈子先生に頼まれたって言ってたけど。ふふっ。 ☆ .。.:*・゜ 聖陵祭最終日の午後。 管弦楽部のコンサートが行われる。 演目は休憩を挟んで前後で2曲ずつの計4曲。 メインはベートーヴェンの交響曲第3番『英雄』。 休憩前の前半2曲目。 ドヴォルザークの謝肉祭で、初めて渉は本番指揮者を務める。 チューニングが終わり、満席のはずの客席に誰もいないかのような静寂が訪れて、祐介は抱いていた渉の肩をそっと押した。 「行っておいで」 「はい」 眩しいほどのステージへ、踏み出す第一歩が大きな拍手に迎えられる。 伝説が始まる、最初の一歩だった。 |
END |
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