さとるくんのにっき 後日談
『最愛の人の手に渡る時』
後編
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シャワーを浴びて、後は寝るだけという体勢になって僕はベッドの上でアルバムを広げた。 何度見ても飽きない、5歳の悟。 賢そうな表情の内に、チラッと『甘えんぼ』の表情を隠しているところなんて、今の悟と変わんない。 さて、宝探しって・・・。 写真の中に何か写ってるんだろうか? それとも、このアルバム自体に何か隠れてるんだろうか? 何度かページを往復したとき、僕は、最後のページだけ少し手触りが違うことに気がついた。 ほんのちょっとだけ、分厚いんだ。 ・・・となると・・・。 あった! きっと帰り道だろう。 小さな悟が電車の窓から熱心に外を見ている写真の下に、それは隠れていた。 こ、これって・・・・・・・・・。 「きゃはははははははははっ!」 さ、悟が泣いてる〜。 しかも、隣にはこれでもか・・・ってくらいの証拠物件! あまりの可愛らしさと可笑しさに、僕が笑い転げていると、枕元の携帯がメールの着信を告げた。 悟だ! 『やっと終わった。明日の始発で行くから』 うわ。録音、今までかかったんだ。もう日付が変わるよ。 でも、始発だなんて無理しなくていいのに・・・。 ま、寝不足のまま運転されちゃうよりましか。 それにしても、メールでよかった。 電話だったりしたら、僕、絶対電話口で吹き出してるよ。 ・・・さて、悟になんて返事をしよう。 『お疲れさま。待ってるから、気をつけて来て』 考えた末、結局それだけにした。 お楽しみは明日・・・ってことで・・・。ふふっ。 ☆ .。.:*・゜ 『おはよう・・・葵・・・』 ん〜? 急に唇を塞がれて、僕は息苦しさに目を覚ました。 目の前には、悟。 アルバムの中の、5歳の彼じゃなくて、生モノ。17年後の姿。 「・・・え?!今何時っ?」 寝過ごしたつもりはないんだけど・・・と慌てて時計を見れば・・・。 「・・・悟、ほんとに始発で来たんだ」 でなきゃ、こんな時間に到着できないよ・・・・・・。 「ひどいな、葵は。僕は、開口一番で葵が『会いたかった〜』とか言ってくれるのを期待してたのに」 ・・・って、昨日の昼まで一緒にいたじゃん。 な〜んて言うと、悟がふくれちゃうので黙っておこう。 「会いたかったよ、悟」 ご期待通りの言葉を素直に言いながら、悟の首に腕を回すと、暖かくて力強い腕が僕をギュッと抱きしめてくれる。 そう、もちろん僕だって会いたかった。もう、少しでも、離れてなんかいたくない。 何度か軽いキスを繰り返し、最後のキスが深くなりかかったとき、僕は慌てて悟の身体を押した。 「悟ってば」 「何?」 「何時だと思ってるの?まだ朝だよ、あ・さ」 「僕には関係ないけど」 あのね〜。 「起きてお父さんの手伝いしなくっちゃ」 僕は『手伝い』にわざわざアクセントをつけて言い、ベッドから勢いよく飛び降りた。 その弾みで・・・。 「あ、葵何か落ちたぞ」 うわお〜、アルバムだ。 「アルバム?」 足下に落ちたそれを、僕が取り上げるより先に、長い悟の手が。 「誰のアルバ・・・・・・」 最初の1枚をめくって、悟が口をつぐんだ。 うひ。 「・・・・・・葵、これ、どうした」 「うん、昨日お父さんからもらったんだ。5歳の時の父子二人旅だって?」 「・・・あ、ああ」 ふふっ。悟、覚えてるみたいだね。 言葉も焦ってるけれど、手元も焦ってる。 性急にアルバムをめくる指が・・・、焦ってるよ・・・。くくっ。 でも、心配ないよ、悟。 問題の写真は、もうその中にはないから。 「可愛いね、悟」 何度も見返して、気になるものがなかったせいか、少し悟が落ち着いた。 「そうかな?我ながら生意気そうな子どもだと思うけど」 「そんなことないよ。すごく可愛い」 僕は悟の手からアルバムを取り戻して、安心させるようにニコッと笑って見せた。 ☆ .。.:*・゜ 3人での食事って久しぶり。 眩しいほどの朝日が射し込むダイニングの広いテーブルには、配達してもらった焼きたてのパンとカフェ・オ・レ。色とりどりのサラダにふわふわのオムレツ、そしてかりっと焼いたベーコン。 お父さんは本当にこう言うところは器用で、僕がさほど手伝うこともなく、かなり素敵な朝食が整った。 「いっただっきま〜す」 お父さんが昨夜の録音について、悟からいろいろ話を聞いてるのを眺めながら、僕は久しぶりのオフを3人水入らずで過ごせることを、とっても嬉しく思っていて・・・。 「そういえば、葵」 ふとお父さんが僕に話を向けてきた。 「なあに?」 「宝物は見つかったか?」 ふふっ、お父さんってば、わざわざ悟の前で聞くんだから。 「宝物?」 何のことだろう・・・と悟も僕の顔をじっと見る。 でも、僕はわざわざその悟の視線をはずしてお父さんに笑ってみせる。 「うん、もう、ばっちり」 お父さんもニヤッと笑う。 「何?なんのこと」 一人話題から置き去りにされて、悟が不機嫌モードになる。 「んとね」 僕は、今度は悟に微笑んで見せた。 それだけで、悟はご機嫌を取り戻してくれるんだけど・・・・・・。 「さっき悟も見たでしょ?昨夜、僕がお父さんからもらったアルバム」 「ああ」 「あの中にね、宝物があるからって・・・」 そこまで言っただけで、悟の顔色が変わった。 「アルバム・・・に?」 「うん。アルバムの中に宝物があるから、探してごらんってお父さんが」 悟がお父さんを見る。 でも、お父さんは知らん顔でカフェ・オ・レなんか飲んでたりして。 「で・・・見つかった、わけ?」 伺うように僕に聞いてくる悟。 「うん、見つけた」 「さっき、そんなのあったっけ?」 「ううん、なかった」 僕はニコッと笑う。 「大事な僕の宝物だからね。昨夜のうちにアルバムから抜いておいた。うちに帰ったら写真立てに入れて飾るんだ」 「ぶっ」 タイミング良く吹き出したのは、もちろんお父さん。 そして、万事に察しのいい悟は、こんなときにもその能力を発揮してしまったようで、僕とお父さんを交互に見つめた後、言った。 「・・・お父さん・・・」 「ん?」 悟の剣呑な声にも、動じてないや、お父さん。 「約束しませんでしたっけ?」 「よく覚えてるなぁ」 「当たり前ですっ」 ふふっ、よっぽど恥ずかしかったんだ、悟。可愛い〜。 「大丈夫絶対誰にも見せないから・・・って言いましたよっ」 あ、そうなんだ。 「そうそう、そう言ったら、お前、ママと昇と守には言わないでっていったんだぞ。その中に葵は入ってなかったし」 「お父さんっ!そんな屁理屈をっ」 うんうん。それは確かに屁理屈だ。むちゃくちゃだな。 「それに、タクトに賭けて誓うって言ったじゃないですかっ」 おや。そんなことを。 「そのタクトも長男が継いでくれることになったからなぁ」 お父さんがしれっと流す。 「いやあ、お前が『ママと昇と守には』・・・ってわざわざ限定するから、タクトに誓う前に『誰にも』って言葉は省いたんだけどなぁ」 うっわ〜、お父さん、めちゃめちゃずるい〜。 「お父さんっ、いたいけな子どもを騙していいと思ってるんですかっ」 「ぶっ」 今度は僕が吹き出した。 いたいけな・・・って、あはは、誰のこと〜って感じだよね。 「あ〜お〜い〜」 うわ、しまった・・・。 「悪いことは言わない。今すぐ写真を返しなさい」 「・・・やだ。だって僕がもらったんだもん」 「葵っ」 「きゃ〜」 ☆ .。.:*・゜ で、その後、どうなったかって言うと・・・。 僕はその夜、ベッドでの恥ずかしい写真を悟に撮られてしまい(こう言うとき、携帯電話にカメラがついてるってまずいよね、ほんと)、それをネタにまんまと例の写真を取り上げられてしまったんだ。 でも、悟は知らない。 あの写真だけは2枚焼き増しされていて、1枚はお父さんの自宅の寝室に飾ってあるってことを・・・。 |
END |
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