おまけのおまけ。

『とある春の日のMAJEC』




「ねえねえ! 今日入社の秘書室の新人って、見たっ?」

「え〜、まだ見てないっ」

「なになにっ? もしかしていい男?」

「いい男っていうか、超可愛いの〜」


 とある昼下がり。
 ちょっと遅めのランチをとるため、ビル内の共同社食にやってきた花のOL3人組。

 彼女たちが勤務しているのは世界にその名を轟かせる、最先端IT企業のMAJEC本社。

 社食ではこうしてきゃぴきゃぴとかしましい彼女たちも、一歩社内に踏み込めばそれはそれは優秀な企業戦士に変身するのだが、オフタイムにはもちろん、こうして社内の楽しいうわさ話に花を咲かせるのは当然のこと。

 そういう楽しみがあってこそのOLライフなのだ。彼女たちには。


「可愛いって、どれくらい? NYの佐保さんくらい? それともまりちゃん?」

「こらこら。まりちゃんなんて呼んだら、開発部長、大暴れよ?」

「『まりじゃねえ〜!』なんて?」

 開発部長兼取締役の声色で真似てみれば、何故か周りのテーブルの、MAJECの社員でない者まで笑っている。

 とにかく、開発部長は人気者だ。

 本人はまったく気付いてなさそうだが、このビル内でもアイドルなのだ。大小取り混ぜ、100社以上入っているビルだけれど。


「ともかく」

 情報の提供者がコホンと咳払いを一つ。

「まりちゃんは別格として、佐保さんとはいい勝負よ、あれは」

「マジ?」

「佐保さんとタメを張れるなんて、相当よ」

「だから、相当なんだってば。しかも東大卒で、性格はちょっぴりシャイな大和撫子風。趣味は剣道と茶道」

「ちょっと。なんでそんなに詳しいの?」

「すでに本人に接触したとか?」

「まさかあ〜。私たち、朝出勤してからずっと一緒じゃないの。どこにそんな暇あるってのよ」

「じゃあ、情報源は?」

 ずいっと詰め寄られて、情報提供者はニタ…っと笑った。

「ふふっ。会長よ」

「ってことは、もしかして直々のスカウト?」

「うーん、スカウトではないんだけど、あたらずとも…ってところかなあ。ほら、去年の暮れに、合併した会社があったじゃない?」

「ああ。社長が大学時代に起こして成功したベンチャーね。かなり話題になってたっけ」

「そうそう。そこにいた子だって。見かけによらず、かなりデキる子らしくて、会長がどうしても秘書室にって」

「そうだったんだ〜。で、その子、なんて名前?」

「それがさあ、読めないのよ」

「読めない〜?」

「うん、なんだかやたらと小難しい漢字が並んで…って…こんな漢字なんだけど」

「ああ、これね。多分『りょうとくいん』よ」

「ええ〜、何で読めるの……って! 噂をすれば! 彼よ、本日の入社の新人秘書!」

 見れば、社食に現れたのは、泣く子も黙る『秘書室長』とスーツ姿も初々しいカワイコちゃんの二人連れ。


「いやだあ、もう。めっちゃ絵になるわね。マジ可愛い。悔しいったら〜」

「それにしても、相変わらず室長も綺麗よねえ。お肌つるつるだし」

「いくつだっけ? 室長って」

「ん〜、確か三十……六?」

「見えないわよねえ〜。ヘタしたら…ううん、ヘタしなくても20代よ、しかも前半!」

「よね〜。私なんて、この前『室長はどこのスキンケア製品をお使いですか?』って聞いちゃったわよ」

「やだあ〜、なんてコト聞くのよ〜。で、なんて?」

「おいおい、キミも興味ありありじゃん」

「そりゃそうよ。で、なんて?」

「苦笑してね、『何にも使ってないよ』って。普通に石けんで顔洗ってるだけって言うのよ〜。もう、羨ましいったら、悔しいったら〜」

「いやいや、やっぱり愛の力でしょうって」

「お。それはもしかして…」

「そう。社長の…ね」

「相変わらず仲いいのよね〜。社長と室長ってば」

「室長のお弁当、社長の手作りだって知ってる?」

「ええっ? マジっ?」


 知らず声を潜めてしまうのは、『こんな美味しいネタ、周囲でアンテナを張ってる他社のヤツなんぞに聞かせたくない』…からだ。

 しかし、周囲はすでに、麗しい秘書室長と可愛らしい新人に目が釘付け…だ。

『やっぱりMAJECって『顔』で採用してるわけ?』だとか、『まりちゃんとのツーショットを拝んでみたいよな』なんて、優良企業の社員とは思えない腐った発言まで漏れ聞こえてくる。

 こうなればもう、新人秘書の『りょうとくいんくん』は共同社食の新たなるアイドルとなること間違いナシだ。

 なにせ、アイドルの『まりちゃん』は、大概「副社長室」で、副社長手作りのお弁当でランチをしているから、副社長が出張でもしていない限り、滅多に社食には現れてくれないから。


「まったく眼福よね〜」

「ほんと、いい会社に入っちゃったわ」

「ね〜」

 食後のデザートをつつきながら、ニヤリと笑う彼女たちも、あと数十分でまた、有能なMAJEC社員の顔に戻るのだが…。



                    ☆ .。.:*・゜



「…って、アレなに?」

 本日も無事に就業時間が終了して、3人組がビルの1階ホールを出たところにそいつはいた。

 スーツ姿も決まりまくった長身のドえらい男前が、人待ち顔で佇んでいる。

「やだ。ウルトラいい男。どこの社かしら?」

「声、掛けてみる?」

「いいわね」

 と、おねーさま方が一歩踏み出した時。


「ごめんっ、待った?」

 頬を染めて駆けてきたのはなんと、本日入社の秘書室の新人くんではないか。

「いや、今来たところだ。…で、どうだった? 入社一日目は」

「うん、働きやすくていいところだよ。みんな親切だし」

「そうか。よかったな」

 キリッと締まった表情がふわっと綻んで、これでもかというくらい愛おしそうな瞳になった。

「そうそう。室長って、翼ちゃんの大学時代の先輩なんだって!」

「え? ほんとか、それ」

「ね、びっくりでしょ?」

「世間って狭いもんだな」

「ほんとだよね〜。あ、ところで今日はもう本庁には戻らなくていいの?」

「ああ、今日は終わりだ。久しぶりにゆっくりできるから、どこかで何か食ってくか?」

「うん!」

 新人秘書くんは長身の男前を見上げると、これでもかというくらいに可愛い顔をして頷き、二人は楽しげに去っていった。


 そして、後には一歩踏み出したまま取り残されたお姉さま方が…。


「……可愛い子には、もれなく男前がついてるってか」

「も〜、どういうことよ〜。可愛い男の子もイケメンもゴロゴロしてるってのに、ちっとも私たちに回ってこない〜!」

「こうなったらもう、飲むしかない!」

「よねっ」

「いこいこ! 今夜はオールナイト〜!」

「ってさ。明日休みじゃないんだけどぉ」

「いいからいいから!」



おそまつ!

というわけで。
設定だけはあるものの、この先お話になることはないであろう、
ある日のMAJECでございましたv

Mashup!のご予約御礼SSをお持ちの方は、
『え?! 桐哉がMAJECにいるってことは、有本くんとなーちゃんはどうなったわけ?!』
…と、思われると思いますが(^^ゞ

あの時は長くなっちゃうので書かなかったのですが、
彼らのその後にもいろいろあったようで、
結局、MAJECの最高責任者が口説き落として会社ごと引っ張ってきた…って感じでしょうか。
なので、有本くんとなーちゃんも、MAJECのどこかにいるはずなのです。
ええ、もちろんセットで(笑)

ちなみに最後に登場のイケメンは、言うまでもなく、3月3日生まれのあの人です(*^m^*)

あ。淳くんと翼ちゃんのお話は、いずれ「まりちゃん」の方でお目にかけることになると思いますv

最後までおつき合いくださいまして、ありがとうございましたv


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