I Love まりお

〜まりおのアルバイト〜




「なおこ先生〜。ここわかんない〜」

「え? どれどれ」

 夕方5時。私は毎週決まってこの日、この時間にここにいる。
 あ、9月からだから、まだ5ヶ月とちょっとだけど。

「ああ、これはね…」

 ここは大学から電車で一駅。
 駅からは徒歩5分っていうありがたい立地にある私のバイト先なの。

 ちなみに職種は家庭教師。
 大学生といえば『コンビニ』か『カテキョ』ってくらい、お決まりのバイトね。


 私は大学に入学した直後に智子のお父さんの籍に入って、正式に前田家の人間になった。

 つまり、天下のMAGECのご令嬢2号ってことになっちゃったわけだから、バイトをしないとお小遣いがたりない…なんてことは、ない。
 足りないどころか、おとうさんは私を甘やかし放題で、私の方がかえって気を遣っちゃうくらいなのよね。


 そう言う状態なんだけれど、でも、私は自分の意志でバイトを始めた。

 もともと私は、大学に入ったらすぐにでも始めようと思ってたの。

 パパの会社が雲行きがアヤシイってのはよくわかってたし、だからといって私がバイトしたくらいでどうにかなるものでもないけれど、それならせめて、自分のことだけでも自分で何とかしようと思ってたから。

 だけど、智子のお父さんは私が大学に入ってすぐにバイトを始めることには反対したの。

 せめて前期の間は新しい生活のリズムを作ることに専念しなさいって。社会勉強ももちろん大切だけれど、大学ですべき勉強をきちんとしてほしいからって。

 で。言いつけを守って、私は前期の間は真面目に勉強して――もちろん後期もそのつもりだけど――夏休みになってからバイト探しを始めたんだけど…。

 一人、厄介なのがいるのを忘れてたのよね。
 誰かって?
 そりゃあもちろん…智子よ。

 最初は猛反対して、反対してもダメだとわかると今度は自分も同じところでバイトするって言いだして…。

 ったく、過保護よね。
 私だっていつまでもガキじゃないっての。
 それより、好き嫌いの多い智子の方が絶対ガキよね。
 未だに椎茸食べられないんだもん。

 でも結局、飲食関係やコンビニはおとうさんから許可が出なくて――ホントは私、ドーナツ屋でバイトしたかったんだ〜。余ったら持って帰れるところあるし――家庭教師をやることになったから、当然智子とは一緒にできない。

 だから、智子は諦めるかと思ってたんだけど、なんと同じ時間帯にここから歩いて5分ほどのところに家庭教師の口を見つけてきて、私が終わる頃にはちゃっかりこのうちの前で待ってるのよね。

 当然行くときも一緒。
 大学からここまで智子と一緒に来て、智子は私がこのうちに入るのを見届けてから、自分のバイト先に向かうって有様。



「ほら、ここんとこがね…」
「あ〜、わかった〜」
「ねっ?」
「うんっ」

 私が教えているのは小学校6年の男の子。英(すぐる)くん…っていうの。
 音楽が大好きで、くるくるとよく動く大きな瞳が印象的な可愛い男の子。
 中学受験を控えて猛勉強中で、私が来る日以外は塾に行ってる。

 目指しているのは都内でも名門中の名門と言われる私立の中高一貫校。チェロを習っている英くんは、そこの管弦楽部と言うのを目指していて、将来は音楽家になるのが夢なんだって。

 私の役目は1週間分の塾での勉強の確認と総仕上げって感じで、3時間みっちりの勉強はかなりきつい。しかも時期的にはすでに「追い込み」。受験本番まであと一ヶ月ってとこ。

 そもそも私自身が塾へ通ったりしないままに中学受験をして運良く合格しちゃった口だから、こうしてまだ小学生なのに頑張ってる子ってスゴイな…なんて思うわけ。

 そうして英くんがまた新しい問題に取り組み始めたとき、部屋のドアが小さくノックされた。

 …えへへっ、そろそろ…。

『直子先生、入ってもいいですか?』

「はい、どうぞ〜」

 おやつの時間よ〜。

 5時から8時って時間帯では普通『夕食つき』って条件が多いらしくて、ここももちろんそうだったんだけど、智子が『バイトをすることに関しては折れたんだから、夕食は必ず私ととること』って言い出してきかなかったんだ。

 だから、せっかくの『夕食つき』をお断りすることになっちゃって、その代わり『それでは申し訳ないから』と、英くんのママが毎回腕によりをかけておやつを作ってくれることになったんだぁ。

 ま、私の場合、初日に『おやつ好き』ってのがバレちゃったからね。
 
 おまけに渉くんのママはお菓子作りが趣味とあって、毎週それは豪華な手作りおやつがでるの。


「さあ、一休みして下さいね」

 大きなお盆を持って入ってきた渉くんのママは、東大出身の超キャリアだったらしいスレンダーな超美人。
 とてもじゃないけど、英くんの上にもう一人男の子がいるようには見えない。

 ちなみにその『英くんのお兄ちゃん』は去年その名門中学に受かって、寮に入ってる。だからまだ一度も会ったこと無いんだけど。

 そうそう。面接の時に一度だけ会ったパパさんは、すんごくダンディで超イケメン。ちなみにクラシック音楽に疎い人でもその顔と名前は知ってる…ってくらい有名なチェリストなの。

「うわっ、すごい〜」

 今日のおやつはプリンアラモード。もちろんプリンも自家製に違いない。果物がいっぱい乗っててめっちゃ美味そう〜。

「さあ、召し上がれ」

「いっただきまーすっ!」

 さっそくスプーンを手に取る私と英くん。

「英、ちゃんと直子先生の仰ること聞いてる?」
「うんっ、ちゃんと聞いてるよ。ねっ、なおこ先生」
「うん、ちゃんと聞いてるよね」

 二人して口をもぐもぐさせながら応えていると、ママさんがプッと吹きだした。

「こうしてみると、本当に直子先生と英はお兄ちゃん弟みたいで可愛いわ〜」

 …お、お兄ちゃん…? ママさん…いくら私がボーイッシュだからって、なんてことを…。

 そりゃあもともとママさんとパパさんが希望していたのは男子学生の家庭教師で、大学側の手違いで面接に来た私がたまたまこんな見かけだったもんだから、あっさりと決まったわけだけどね。

 おまけに教える相手が小学生の男の子っておかげで智子がご機嫌になったから更によかったわけ。

 だってさ、智子ってば、『家庭教師はいいけど、女子高校生なんか以ての外だからねっ』なんて言うの。

 なんで…って聞いたらさ、『密室で襲われたらどうするのよっ』だって。
 マジで言ってるところがコワイわよね、まったく。
 普通は男の子の方を警戒しない?


「ねえ、英くん」
「なに? なおこ先生」
 
 ちなみに私がこのバイトをものすごく気に入ってるのは、条件がいいとか生徒が可愛くて素直だとかお母さんの手作りおやつが美味い…ってだけじゃあない。

 そう! ここでは絶対に『まりお』とは呼ばれないの!

 

『なおこ先生』


 …どう? この甘美な響き。



続く……







わけないって(笑)

いやー、今年もエイプリルフール企画におつき合いくださいまして、ありがとうございました!

何を忘れても、この日とハロウィンだけはハズさない桃の国でございますが、
今年のテーマは紆余曲折の末、『百合サイトを作ろう!』でございました(笑)

で、せっかく作るのだったら、入り口だけじゃなくて、お話も…と思い、
ファイルの山から掘り返してきたのが、
サイト未発表の『まりちゃんのアルバイト』の第一回のパロディです。

大学に入った智と直のバイト話なんですが、
文中に出てくるバイト先の家族は、本当は別の人たちです。
チェリストのパパと東大出身のママと名門中学に行ってるお兄ちゃんを持つ英君は、
今回は特別出演でした。(だいたい年代が違うのでね〜)


そうそう。
まりちゃんをパロる前にはこんなのを考えてました。

『私の愛を奏でてみる?』
第一章『Prelude』

「ふ…富士山って、でかいわ…」


な〜んて(笑)

葵が悟たちを『お姉さま』と呼び、祐介と先生が『ごきげんよう』と挨拶を交わす話を妄想してたのですが、
葵以外のヤツらの180cm級の巨大かつ暑苦しい女装群が頭を過ぎり、一気に萎えました(爆)


というわけで。
いつの日かホンモノの『まりちゃんのアルバイト』をお目にかけられたらな〜…と思いつつ、
2007年の四月馬鹿は終了でございます〜☆

これからも、桜の国…じゃなくて、桃の国をよろしくお願いいたします〜!

P.S. Pロさま、Mつさま、今年もご協力ありがとうございました〜!
バナーの原画はこちら〜!


そして、ホンモノのまりちゃんはこちら









































ホンモノの(笑)『まりちゃんのアルバイト』
ちょこっとさわりだけ。




「なお先生〜。ここわかんない〜」

「え? どれどれ」

 夕方5時。
 俺は毎週決まってこの日、この時間にここにいる。
 あ、9月からだから、まだ5ヶ月とちょっとだけど。

「ああ、これはね…」

 ここは大学から電車で一駅。
 駅からは徒歩5分っていうありがたい立地にある俺のバイト先だ。

 ちなみに職種は家庭教師。大学生といえば『コンビニ』か『カテキョ』ってくらい、お決まりのバイトだ。

 俺は大学に入学した直後に智のお父さんの籍に入って、正式に前田家の人間になった。

 つまり、天下のMAJECの御曹司2号ってことになっちまったわけだから、バイトをしないと小遣いがたりない…なんてことは、ない。

 足りないどころか、おとうさんは俺を甘やかし放題で、俺の方がかえって気を遣っちまうくらいなんだ。

 そう言う状態なんだけれど、でも、俺は自分の意志でバイトを始めた。

 もともと俺は、大学に入ったらすぐにでも始めようと思ってたんだ。

 親父の会社が雲行きがアヤシイってのはよくわかってたし、だからといって俺がバイトしたくらいでどうにかなるものでもないけれど、それならせめて、自分のことだけでも自分で何とかしようと思ってたから。

 だけど、智のお父さんは俺が大学に入ってすぐにバイトを始めることには反対したんだ。

 せめて前期の間は新しい生活のリズムを作ることに専念しなさいって。社会勉強ももちろん大切だけれど、大学ですべき勉強をきちんとしてほしいからって。

 で。言いつけを守って、俺は前期の間は真面目に勉強して――もちろん後期もそのつもりだけど――夏休みになってからバイト探しを始めたんだけど…。

 一人、厄介なヤツがいるのを忘れてたんだ。
 誰かって?
 そりゃあもちろん…智だ。

 最初は猛反対して、反対してもダメだとわかると今度は自分も同じところでバイトするって言いだして…。

 ったく、過保護だよな。
 俺だっていつまでもガキじゃねえっつーの。
 それよか、好き嫌いの多い智の方が絶対ガキだよな。
 未だに椎茸食えねえんだぜ。

 でも結局、飲食関係やコンビニはおとうさんから許可が出なくて――ホントは俺、ドーナツ屋でバイトしたかったんだ。余ったら持って帰れるところあるし――家庭教師をやることになったから、当然智とは一緒にできない。

 だから、智は諦めるかと思ってたんだけど、なんと同じ時間帯にここから歩いて5分ほどのところに家庭教師の口を見つけてきて、俺が終わる頃にはちゃっかりこのうちの前で待ってるんだ。

 当然行くときも一緒。
 大学からここまで智と一緒に来て、智は俺がこのうちに入るのを見届けてから、自分のバイト先に向かうって有様だ。



「ほら、ここんとこがね…」
「あ〜、わかった〜」
「だろ?」
「うんっ」

 俺が教えているのは小学校6年の女の子。千絵ちゃん…っていうんだ。絵を描くのが大好きで、くるくるとよく動く大きな瞳が印象的な可愛い女の子だ。

 中学受験を控えて猛勉強中で、俺が来る日以外は塾に行ってる。

 目指しているのは俺が通っていた高校の系列女子中学校だ。大学までエスカレーターだから人気も高い。

 俺の役目は1週間分の塾での勉強の確認と総仕上げって感じで、3時間みっちりの勉強はかなりきつい。
 しかも時期的にはすでに「追い込み」。
 受験本番まであと一ヶ月ってとこだ。

 そもそも俺自身が塾へ通ったりしないままに中学受験をして運良く合格しちまった口だから、こうしてまだ小学生なのに頑張ってる子ってスゴイな…なんて思うわけだ。

 そうして千絵ちゃんがまた新しい問題に取り組み始めたとき、部屋のドアが小さくノックされた。

 …へへっ、そろそろ…。



『直先生、入ってもいいですか?』

「はい、どうぞ〜」

 おやつの時間だ。

 5時から8時って時間帯では普通『夕食つき』って条件が多いらしくて、ここももちろんそうだったんだけど、智が『バイトをすることに関しては折れたんだから、夕食は必ず俺ととること』って言い出してきかなかったんだ。

 だから、せっかくの『夕食つき』をお断りすることになっちまって、その代わり『それでは申し訳ないから』と、千絵ちゃんのママが毎回腕によりをかけておやつを作ってくれることになったんだ。

 ま、俺の場合、初日に『おやつ好き』ってのがバレちまったからな。
 おまけに千絵ちゃんのママはお菓子作りが趣味とあって、毎週それは豪華な手作りおやつがでるんだ。

「さあ、一休みして下さいね」

 大きなお盆を持って入ってきた千絵ちゃんのママは、元ピアニストさんという超美人。
 今でも何人もの生徒にピアノを教えているそうだ。
 とてもじゃないけど、千絵ちゃんの上に高校生の男の子がいるようには見えない。

 ちなみにその『千絵ちゃんのお兄ちゃん』は名門私立高校の寮に入ってるらしくて、まだ一度も会ったこと無いけど。

 面接の時に一度だけ会ったパパさんは、すんごくダンディな人だった。
 弁護士さんとか言ってたっけな。


「うわっ、すごい〜」

 今日のおやつはプリンアラモード。もちろんプリンも自家製に違いない。果物がいっぱい乗っててめっちゃ美味そう〜。


「さあ、召し上がれ」
「いっただきまーすっ!」

 さっそくスプーンを手に取る俺と千絵ちゃん。

「千絵、ちゃんと直先生の仰ること聞いてる?」
「うんっ、ちゃんと聞いてるよ。ねっ、なお先生」
「うん、ちゃんと聞いてるよね」

 二人して口をもぐもぐさせながら応えていると、ママさんがプッと吹きだした。

「こうしてみると、本当に直先生と千絵はお姉ちゃんと妹みたいで可愛いわ〜」

 …お、お姉ちゃん…? ママさん…なんてことを…。

 そりゃあもともとママさんとパパさんが希望していたのは女子大生の家庭教師で、大学側の手違いで面接に来た俺がたまたまこんな見かけだったもんだから、あっさりと決まったわけだけどさ。

 おまけに教える相手が小学生の女の子っておかげで智がご機嫌になったから更によかったわけだ。

 だってさ、智のヤツってば、『家庭教師はいいけど、男子高校生なんか以ての外だからなっ』なんて言いやがんの。

 なんで…って聞いたらさ、『密室で襲われたらどうするんだよっ』だって。
 マジで言ってるところがコワイよな、まったく。
 

「なあ、千絵ちゃん」
「なあに? なお先生」

 ちなみに俺がこのバイトをものすごく気に入ってるのは、条件がいいとか生徒が可愛くて素直だとかお母さんの手作りおやつが美味い…ってだけじゃあない。

 そう! ここでは絶対に『まりちゃん』とは呼ばれないのだ!

『なお先生』

 …どうよ、この甘美な響き。



いつの日か続く……はず(笑)



いや〜、やっぱり♂×♂の方がしっくりきますわ〜(爆)
というわけで、冗談抜きでがんばりますので(笑)
これからもお見捨てなく〜(^_^)ノ""

おまけのおまけも、見る?

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