『偶然の恋、必然の愛 2』
【最終回】
自覚
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旅は一時中断で、シーヴァへ戻ることになった。 セビを送り届けることになったからだ。 勿論これはリィの意思でもあるので、帰ることに否やはない。 しかしカイルは二人を送り届けた後、サナトリアへ帰らなければならなくなった。 これには当の本人はかなり渋ったようだが、イリヤは頑として首を縦に振ることはなく―― 「兄君様もご心配なさっておいでです」 この一言でカイルを黙らせた。 カイルと離れるのは残念だが、イリヤの言い分の方が正しく、リィも必要だと思ったので、やはり否やはない。 そう、それをどれだけ寂しく思っても、仕方のないことなのだ。 翌朝、昨日とは打って変わっての快晴の空の元、結構な数の人間が村長宅前に集まった。 カイルの部下十名と罪人が四名。 そして、物言わぬ骸が三つ。 彼らは直接サナトリアへ向けて、リィ・カイル・セビの三名はシーヴァへ向けて立つこととなった。 「お世話になりました」 丁寧なお辞儀をつけるリィと来た時より更に恐縮している村の主要者たち。 永の別れとなってしまうことで涙を堪える子供たちと隣人の女性。 彼らから少し離れたところで声を潜めて話し合っているカイルとサナトリア組。 そしてそれらを少し遠巻きに眺める村人たち。 こうしていくつかの固まりに分かれていたが… 「?」 挨拶を終えたリィがカイルの姿を探すと、イリヤと何やら言い争っている様子で。 心配になってそっと近づいてみると。 「…て、ください」 「っ!」 何かをしろと進言されたようだが、カイルは承服しかねたのかプイっとそっぽを向いてしまう。 その先に丁度リィがいたからか、カイルは唖然とした様子で目を見開いた。 「どうなさったのですか?」 二人が何を喋っていたのか殆ど聞こえなかったリィにはカイルの態度の原因がさっぱりわからず、訊ねたわけだが。 「なんでもないっ!!」 何か、顔が赤い? 珍しい表情を見た気もするが、ものすごい勢いで首を横に振るので、それ以上言葉を重ねることはできず、イリヤを窺うも視線を逸らされてしまった。 「そろそろ行くぞ」 リィが視線を逸らした一瞬で我に返ったらしい。 一行のリーダーであるカイルが声を張り出発の時を告げる。 イリヤと話している時は手のかかる弟のような表情をするのに、人の前に立った途端格好良くなるのだから…カイルという人はホントに、 「ずるい」 「どした?」 リィの呟きが届いてしまったカイルに怪訝な顔をされたが。 「何でもありません!」 笑って返してセビの元へ駆け寄った。 これからも辛いことや目標が遠すぎて折れてしまいそうになることは沢山あるだろう。でも 「頑張りましょうね!」 僕はこんなカイルの表情を一番近い場所で見ていたい。 笑顔でセビに向けた言葉だが、リィは自らの心にも深く刻み込んだ。 二人の様子を一歩離れた場所から眺めるカイルの表情もまた笑顔だった。 |
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