『偶然の恋、必然の愛』

【16.5】





 座っているカイルに覆い被さるような形で立っていたリィに対し、座ったままのカイルは上から受け入れて始まった口付けをいつまでもされるがまま、なワケはなく――


「んっ」

 リィの髪に右手を差し込みつけたばかりの傷に響かぬようゆっくり梳き下ろしてゆく。さらさらとしたその感触を楽しみながらも口付けは密度を増してゆく。

 合わされた唇の間から舌を出し、リィの唇を軽く舐める。

「あっ…」

 カイルの呼びかけに応えるように薄く開かれた口にするりと中へ潜り込むと歯列をなぞり更に奥へ進むと見つけ出したその輪郭をゆっくりと辿る。


「んっっ!」

 甘い味を確かめながら何度目に手を梳き下ろした時だろうか。
 とうとうリィの身体が力を無くし崩れ、カイルの膝の上にへたり込んだ。

 真っ赤になって激しく肩で息をするリィにカイルは少し飛ばしすぎたかと心配になり窺うように顔を覗き見ると、雨上がりの空の青とどこか夢見心地のふんわりした笑みにぶつかった。

 そして、

「やはり、カイルは…凄いですね」

 と。


 全く予想もしていなかった言葉にカイルは固まってしまった。

(口付けがよかったからと言って、普通こういう言葉は出ない、と思う、が…)



「だって」

 怪訝な表情に気付いたのか、リィは一度大きく息をついてその言葉の理由を口にした。

「全然息が乱れてないじゃないですか。僕はこれ以上もちませんよ。やはり鍛え方の差、ですか?」

 膝の上で小首を傾げる愛しい者をまじまじと眺める。

 この状態でこういうセリフを聞かされる場合、そのイミはそれまでの「経験」を暗になじるものとなるのが世間一般だが、相手がリィとなると…


「…息、してなかった、とか?」

 激しい運動をしていたワケじゃない。なのに息がもたないとなると思いつくのはコレくらいしかなくて。

 まさかともしかしてが半々の問いかけにいともあっさり「はい」と頷かれ、脱力。


 リィがこの手のコトに慣れていなかったことを喜ぶべきか、予想が当ってしまったこと、と言うか過去の相手を気にもされなかったことを悲しむべきか――


「ぷっ、くっくっくっ…」

 こうなれば笑うしかない――相手はリィなのだから。


 とうとうカイルはリィの肩に頭を乗せて笑い出してしまった。

「カ、カイル?」


 何故彼が突然笑い出したのか皆目見当もつかないリィは戸惑うばかりである。


「あの…」

「いいさ」

 ピタリと笑いを収めたカイルはリィの肩に両手を乗せるとちゅっと唇に触れた。


「これからは俺がリィの経験値を上げてやる。一緒に高めて行こう、な」

 ニヤッと笑うその表情に言葉のイミこそよくわからなかったものの、何かを感じ取ったリィは頬を赤くしてただ小さく「はい」と頷いた。


「じゃあそういうワケで、一度立ってもらえるか?」

「え? あ! すみませんっ、重かったですよね」

 指摘されリィは慌ててカイルの膝から退いたが。


「だーかーらー、重くないと言ってるだろうが」

 先程説明したばかりのことをまた言われ、カイルはムッとした顔で自身の言葉を行動で証明する。


「ほらっ」
「わっっ」


 急に視界が変わり、驚いたリィは慌ててそばにあったモノにしがみつく。

 そうしている内にもカイルは横抱きのリィを抱えたまますたすたとその場を離れ、隣室の寝台にそっと下ろした。


「な?」

「ホント、ですね」


 ずっと夢の中だけだった陽の光の髪も、葉の緑の目も、今は隠れているスミレの…いや、暁の目も確かなぬくもりと共に目の前にある。


 そして、カイルの小さな子供のようなこだわり――離れている間はそんなことも、いや何処の誰なのか名前すら知ることのできなかったことで――だから今はそれすら愛しく感じる…


 リィはゆっくりと息を吐いて自分の両脇に手をついて屈み込んでいるカイルの首に一度離した手を再び回した。


「リィ!?」

 これにはさすがのカイルも驚いた。自分がリィの経験値を上げてやると言ったばかりなのに…これは気合を入れねばと思ったのだが。


「……ですね」

「え? リィ、もう一度」


 何かを言われたが聞き取れず、その口元へ耳を近づける。


「カイル…あたたか、い……」

 聞き取れた言葉はそれだけで、続きは…


「すぅすぅ…」


 穏やかな寝息が聞こえるばかりだ。


「おいおい…あ」


 落ち込みかけた時に脳裏に浮かんだのは――

「そう言えば酒、弱かったか…」


 再会した時もあんな状況の中、無理矢理勧められた酒のせいで眠っていた。

 だからここ10日ばかり心身共に休まる時などなく、そこへアルコールを取ればこうなっても仕方ないわけで。

 カイルは自らの迂闊さを呪いたくなったが、それでも目の前には愛しい者がいるわけで――


「慌てる必要もない、か」

 ため息をつきつつも、自分もリィの横にもぐり込み、起こさぬようにそっとその身体を抱き締め目を閉じた。



 二人で見る夢はどこまでも優しくあたたかかった。




END

ま、こんなですが「二人の第一夜」ってことで笑ってやってくださいな(笑)
え?
「第一夜ってことは、第ニ夜とか三夜とかもあるのか?」って?
さぁ…めいにもわかんなーい(逃亡→)

by めい

もちろんです!
第ニ夜とか第三夜とか…。
百日詣ででもOKですっ(おい)
めいちゃん、よろしくねー!(笑)

byもも♪

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