クンクン…

 何か甘くていい匂いが漂ってくる。
 匂いにつられてキッチンまできたら、藤原君と佳代子さんがケーキを焼いている最中だった。

 そう、今日は12月24日クリスマスイブ。

 今日は悟も休みをとって、朝から出かけて夕方までたっぷりデートする予定だったのに……。

 もう日もすっかり高くに昇りもうお昼といっていい時間だ。

 もう!悟ってば、夕べあれ程「ほどほどに」って言ったのに〜
 こうなったら、今日はすっごいプレゼント買わせちゃうんだから!!

 今夜は、香奈子先生が帰ってくるので、家で佑介も招いてクリスマスパーティをやる予定だ。
 このパーティを誰よりも楽しみにしているのは藤原君だった。

 毎年、クリスマスには海外赴任中のご両親のところに行くか、ご両親の実家で過ごすかしているのだけど、今年はどちらも都合が悪くなって、下宿先のこの家でクリスマスを過ごすことになった。
 そんな藤原君に寂しいクリスマスを迎えさせてはいけないと、佳代子さんが先頭に立って一月前からクリスマスの準備を始めていた。

 数週間前にはリビングに大きなツリーを出し、香奈子先生が休みの日に皆でオーナメントを飾った。
 そして、クリスマス当日まで、そのツリーの下にはお互いのプレゼントを置くことにした。

 藤原君は時々ツリーの下に座りプレゼントを見て、ウズウズしてしまうらしく手に取ってみたり振ってみたりして、佳代子さんに「クリスマスまで辛抱ですよ。」なんて嗜められてシュンとしていた。

 先週には藤原君のご両親から沢山の荷物が届き、中には藤原くんの他に僕らの分のプレゼントが入っていて、今ではツリーの下は更に色とりどりの包み紙のプレゼントが溢れている。



 今、キッチンには、焼き立てのジンジャークッキーやチョコレートや甘いバニラの香りで充満している。
 佳代子さんは焼き上がった四角いスポンジケーキをオーブンから出している。藤原君は真剣な顔で薄く切ったココア地のスポンジを10センチくらいの丸い抜き型でくり抜いている。


「あれ?佳代子さん今日はチョコレートケーキと普通のケーキ二種類作るの?」

「おはようございます葵様。いいえ、違うんですよ藤原君にどっちがいいか聞いたらどっちもって言うんで、それじゃぁ両方使いましょうってことになったんですよ。」

「ふぅ〜ん、どんなケーキができるのか楽しみだなぁ。で、藤原君は何をしているの?」

「はい、サンタさん用の小さなケーキを作っているんです。」

と藤原君は粉だらけの頬を赤らめて嬉しそうに答えた。

「…え?サンタさん…?」

 藤原君は目をキラキラさせてコックリと頷いた。

(さんたさん?三太さん??サンタさん?!!)

 僕が戸惑って佳代子さんの方を見ると、ちょっと困ったような笑顔で僕を見ていた。
 驚いたことに藤原君は13才にして未だサンタクロースを信じているのだ。

 なんとも純粋と言うか、お子さまと言うか……でも…か〜わい〜〜!!

 あんまり可愛くて思わずギュって抱き締めたくなっちゃったんだけど、粉だらけの顔と僕の後ろで起きてきたばかりの悟が、キッチンに充満する甘ったるい匂いに顔をしかめて立っているのを見てやめた。

「あら悟様、お早うございます。すぐにお食事を持っていきますからダイニングで待っていて下さい。葵様も今日はご一緒に外出なさるんでしょう?早くお食事して出かけられないとすぐに夕方になってしまいますよ。」

 そうだった、悟のせいで貴重なデートの時間が削られたんだ、文句の一つも言ってやろうと後ろにいる悟を睨み付けようとしたら、危険を察知して悟はそそくさとダイニングに行ってしまった後だった。

(もう!今日はぜ〜ったい高いもの買ってもらうんだから!!)

 そう決意して、ドスドスと足音も荒くダイニングに向かった。


                  ☆ .。.:*・゜


 葵と悟が慌ただしく外出したころには、ケーキの方は冷やしてからデコレーションをするだけとなっていた。

「さぁ、ケーキが冷えるまでお料理の方に取りかかりましょうか。」
「はい!」
「じゃ、まずは一番時間のかかるチキンから始めましょうかね」

 といいながら佳代子さんは大容量の冷蔵庫から丸ごとのチキンを出してきた。

 それを見た彰久がちょっと顔色を青くしたので、佳代子さんはクスっと笑い
「藤原君、チキンをオーブンに入れたら呼ぶから、それまでダイニングとリビングお掃除をしてきてちょうだい」
「はい!」

 と返事をするが早いか彰久は逃げるようにキッチンを後にした。


                      ♪


(ふぅ、助かった〜)

 ボクはほっとしながら、ボクはリビングとダイニングの掃除に取りかかった。
 まずは、ハタキでホコリを払い掃除機をかけてと。今日は徹底的にワックスまでかけちゃおうかなぁ。なんて考えながら、作業を進めた。

 今日ボクがなぜこんなに張り切っているのかと言うと、今年こそ夜更かししてでもサンタクロースに会おうと決めているからだ。そのためにも早く準備を終わらせて、ちょっとでもお昼ねをしておかないとね。

 しかし、何故か今日に限って佳代子さんの人使いが荒い。次から次へと用事を言い付けられ、やっと一休み出来るようになったのは4時半を過ぎてからだった。

 とにかく30分でも寝ようと部屋に上がっていこうとすると、佳代子さんがお茶にしましょうと声をかけてきた。もうすっかり二人分のお茶が入っているので、結局お茶をいただいてから昼寝をすることにした。

 しかし、いざ昼寝をしようと思ったら、紅茶のせいなのか目が冴えてしまって全く眠ることができなかった。

 ボクはその時、佳代子さんがボクを寝かさないように、必死だったなんて疑ってもいなかった。




その頃…




「え?!マジで?あの年でまだ信じてるの?」
「うん、僕もビックリしちゃった。目なんかキラキラさせちゃってさ、かわいいよね〜」
「とにかく、彰久の前で『サンタクロース信じなくなったのはいつか』なんてのは禁句だぞ。」
「了解!」

 祐介は応えながらふざけて敬礼した。


 僕と悟が祐介と家に帰る途中で合流してこんな会話をしている事は、もちろん藤原君は知る由もない。

 僕らとほぼ時を同じくして香奈子先生も帰宅して、予定通り7時からパーティは始まった。

 佳代子さんの心づくしの料理はどれも美味しく、祐介なんか佳代子さんにもう、お持ち帰り用のタッパーを催促している。

 藤原くんも楽しそうで、いつもは少食な藤原くんが佳代子さんがせっせと皿に乗せる料理を残さずに食べている。最初からあんなに飛ばしてケーキまで入るかな?

 しかし、僕の心配は杞憂だったらしくメインのチキンのもペロリと平らげ、お待ちかねのケーキも美味しそうに頬張っている。

 ケーキはホントに美味しくイチゴ味のホワイトチョコのムースで普通のスポンジを挟み、それをさらにココア地のスポンジで挟んであって、ケーキ全体は甘さを控えたリキュールの入った生クリームで包み、真っ白なケーキのデコレーションは薔薇の花びらに見立てたイチゴとチョコレートの葉っぱでシンプルかつエレガントに、ケーキの脇にはクッキーで作った小さなお家とプラスチックのツリーがかわいらしく飾られていて、家の煙突には小さなサンタまでいる。

 藤原君は当然クッキーのお家とツリーをもらい目をキラキラさせている。

 それにしても…

 このケーキちょっとアルコールがきつくないかなぁ?
 このクリームはもちろん、スポンジにもリキュールが染み込ませてあるみたいだ。

 そう思って周りを見ると、悟は生クリーム系が苦手なのでケーキにはほとんど手をつけていない。

 祐介は……ありゃりゃ、すっかり出来上がってる。

 そう言えば、僕らは香奈子先生が買ってきた赤ワインを飲んでいるんだった。今も祐介は先生に勧められるままに飲んでいる。あんなに飲んで大丈夫かなぁ…
 そして、唯一ワインを飲んでいない藤原くんはというと…

 やっぱり…

 ケーキを食べているだけなのに、ほんのりと頬が上気し、目がトロンと潤んで凶悪的に可愛い。
 あ〜あ、すっかりケーキのアルコールに酔っぱらってる。でも、変だなぁ、佳代子さんらしくない。
 いつも佳代子さんは僕達のために、これでもかと言うくらい食事に気を使っているのに。

 と佳代子さんと目が合った時、僕は悟った。

 佳代子さんはわざと藤原君を酔わせようとしている!!

 ケーキを食べ終わると、佳代子さんはさっと立ち上がり、自分はテーブルを片付けるので、皆さんは音楽室でキャロルでも歌ってはどうか、と提案した。香奈子先生がこれに飛びつき、さっそく音楽室へ向かうこととなった。

 さっきから、しきりに睡魔と戦って、目を擦っている藤原くんは佳代子さんのお手伝いをしようとしたが、佳代子さんから昼間たくさん働いてくれたのだから、ゆっくりしていなさいと、優しく声をかけられ、大人しく従った。

 音楽室で、香奈子先生が弾くピアノに合わせて皆でキャロルを歌ったっている内に、藤原君はウトウトし始め、佳代子さんが片付けを終え、皆のためにお茶を持ってくる頃には、ソファで僕にもたれてグッスリ寝入ってしまった。
 見兼ねて(祐介は酔っていて足下が危ないので)悟が藤原くんを部屋に運ぶことになり、僕も着替えを手伝うためについて行った。



 藤原くんのベットのヘッドボードには大きな赤い毛糸の靴下が下げられていて、今夜着るために赤地に可愛いトナカイのキャラクターのプリントがしてあるパジャマが畳んで置いてあった。
 アルコールと疲れのせいか、藤原くんはパジャマに着替えさせているときもピクリとも目を覚まさなかった。

 そして着替えさせているときに僕は見てしまった。

 藤原君のいつもの名前入りグンゼに、お母さんが付けたのかサンタクロースとトナカイのアップリケが付いているのを……ぷぷ、かわいい…vv



 藤原君をベットに入れ、僕らが音楽室に戻ると佳代子さんが祐介にコーヒーをや浴びる程飲ませていた。

「ほら、警部、酔っぱらって寝られては困りますよ。あと、一仕事残っているんですから。」
「う〜〜…佳代子さんもうお腹がタプタプですよ〜。それに一仕事って何なんですか?」
「もう、目は覚めましたか?」
「ハイハイ、もう覚めました。でも、ちょっとトイレに行きたいかも…」

と言いながら祐介はトイレにダッシュしていった。

 そりゃ、あれだけコーヒー飲まされたら、トイレに行きたくなるよね。それにしても佳代子さん、祐介に何をさせる気だろう?

 やっとスッキリ顔の祐介が戻ってくると、佳代子さんは何処から出してきたのか、真っ赤な衣装を祐介に押し付けた。

「さ、警部。これに着替えてくださいな。」
「え?!これって…」

 それは、間違いなく赤いズボンに赤いガウンと白いポンポンが付いた赤い帽子、真っ白なカツラと長い付けヒゲというサンタクロースの衣装だった。

「しかし、なんだってこんな格好を?」

 佳代子さんはため息をつきながら説明してくれた。

 先週、藤原君のご両親からプレゼントが入った荷物が届いたあと、こっそりと佳代子さん宛でまたご両親から荷物が送られてきた。中にはこのサンタクロース変身セットとプレゼントが一つ。不思議に思っているとタイミングを見計らったように、藤原君のお母さんから電話が入り、佳代子さんにお願いしたらしい。

 藤原君は知っての通り未だにサンタクロースを信じていて、毎年サンタクロースに会うと意気込んでいるそうなのだ。とりあえず、昨年までは何とか眠らせることに成功しているので、藤原君は未だに信じたままなんだけど…

「でも、今年は、葵様たちに付き合って夜更かしすることも多くなって宵っ張りになってきてるでしょう、だから心を鬼にして今日一日目一杯働かせて、お昼寝もさせなかったんですよ。そして、ダメ押しにケーキにリキュールをたっぷり染み込ませて。おかげで、ぐっすり眠ってくれたみたいですけどね。そう言う訳で、後は警部がこのサンタさんからのプレゼントを藤原君の枕元にある靴下に入れてくれば任務完了というわけです。」

「いや…しかし何もサンタクロースの格好までしなくても。」

「もしも、藤原君が目を覚ました時の為の保険です。いいですか、もし目を覚ましたらこうやって笑うんですよ。」

 と言って佳代子さんはフォーッフォッフォッフォとサンタクロースの笑い真似をして見せた。

「はぁ…いや、でも何も俺じゃなくても、警視がやれば…」

 言いかけた祐介に佳代子さんが積み上げたタッパーを掲げて見せた。(この時、佳代子さんの頭の中で「恋人がサ○タクロ○ス」が流れていたかどうかは定かではない。)

「働かざるもの食うべからずですわ、警部。」

「う…」

「ほほほ、浅井警部も佳代子さんには形無しですわね。でも、どうせならトナカイの着ぐるみも用意して悟にも着せたかったわね〜、そして葵ちゃんと私は真っ白な天使の衣装を切るの…うふふ」

「お母さん、仮装パーティじゃないんですから。だいたい僕は着ぐるみなんかごめんです。」

「悟のケチ〜」

 プンとむくれる香奈子先生は本気なのか冗談なのかイマイチ分からないところが怖い。
 来年あたりクリスマスに仮装しようとか言い出したりして。

「くくく…、僕もちょっと見てみたいな〜悟の全身タイツとか」

と横目で悟を見たら、
「葵…まだ今朝のことを根に持ってるな」

 バツが悪そうに悟るがブツブツ言っている。うふふ、そろそろ許してあげてもいいかな。

 そんな風に僕らがバカ言って笑っている間に、佳代子さんはテキパキと祐介を着替えさせていた。お腹の部分にクッションを詰め付けヒゲを付けると、痩せ形の祐介がでっぷりしたお腹と真っ白な長いヒゲのサンタクロースに変身していた。

「よくお似合いですよ警部」

「こんなのが似合うって言われてもなぁ…」

「ほほほ、戻ってきたら藤原君お手製のサンタさん用のケーキを食べさせてあげるから頑張っていらっしゃいな」

 といいながら、香奈子先生はそのサンタさん用のリキュールを優雅に飲んでいる。

「さ、これを持って作戦開始ですよ警部どの」

「了解…」

 渡された大きな(しかし、中身は枕の)白い袋を担ぎ片手に藤原くんのプレゼントを抱え、腹に詰め込んだクッションでヨタヨタしながら部屋を出て行った。


                    ☆ .。.:*・゜


「ん…」

 いつのまに眠ってしまったのだろう。

 今日は何か大事な事があったような…・

 半分覚醒した頭で考えていたボクの視界で何かが動いたような気がした。
 ぼんやりと見やる先には赤人影がその人影はゆっくりこちらを振り返り白いひげの奥の口がニヤリと笑った気がした。その瞬間人影は僕の視界からかき消えた。

 あれは、誰かしら…ボクは誰を待っていたんだっけ?
 今日は楽しかったんだよね。

 葵先生や警視や皆でクリスマスバーティをやってキャロルを歌って、家族と過ごす事はできなかったけど、大好きな人達と一緒に祝えて幸せだった…

 クリスマス……・・

 ……………・・

 …………………・あ!!!

 サンタクロース!!!!!

 ボクはサンタさんを待っていたんだ!
 じゃあ、あれは…・ボクが見たあの人は…・

「サンタクロース?!!!」

 と叫んで目が覚めたときは、もうすっかり朝になっていた。慌てて枕元にかけてある靴下を見ると中にはプレゼントが入っている!

 やっぱり、あれはサンタクロースだったんだ。
 ボクはプレゼントの入った靴下をひっつかみスリッパを履くのも忘れベットを飛びだし、ツリーがあるリビングに駆け込んだ。


「あら、藤原君おはよう。早かったのね、今日はゆっくりしていてもよかったのに。」

 ダイニングで朝食の準備をしていた佳代子さんが声をかけてきたのだけど、ボクは返事もそこそこにツリーの下にしゃがみ込む。ツリーの下には昨日置いておいたプチケーキとグラスに入ったリキュールがあり、ケーキは齧られ、リキュールは半分に減っていた。

(やっぱり、あれはサンタクロースだったんだ。)

 とツリーの下で座り込んで放心していると葵先生に声をかけられた。


                      ♪


 僕が目を覚まして、リビングに入るとツリーの下で藤原君が座り込んで夢見るように宙を眺めていた。

 手にはプレゼントが入ったままの靴下が握られている。その表情を見たとき、僕はなんだかうれしくなってしまった。それは佳代子さんも同じだったらしく、リビングの続きにあるダイニングからコッソリ様子を伺いニコニコしていた。ふとふり返ると悟と祐介と香奈子先生も笑顔で立っていた。

 ちょっと大変だった(主に佳代子さんと祐介が)サンタクロース大作戦も、思わぬところで僕らにも幸せな気分をくれたみたいだ。
 藤原君があんなに無邪気にはしゃいでいるのを見たのは初めてかもしれない。


「おはよう、藤原君。それからメリークリスマス。どうだった、サンタさんは来てくれた?」
「はい!」

 うれしそうに藤原君はツリーの下に置いてあった小さなケーキの皿を見せた。

「へぇ〜、食べてるじゃん。ホントに来たんだ〜」

 ちょっとわざとらしく祐介が言って藤原君の隣に座った。

「はい!それに、ボク見たんです!!」
「見たって、まさかサンタクロース?!!」
「はい!!」

 藤原くんは頬を紅潮させ目をキラキラさせている。

 僕はチラっと祐介を見た。祐介は困惑している。
 僕はコッソリ祐介に小声で聞いてみた。


『祐介、藤原くん目を覚ましたの?』
『いや…おかしいなぁ。ぐっすり眠っているように見えたんだけど』


「で、サンタクロースはどんな感じだった?」

 悟が面白がって聞いている。

「あの、思ったより若くて、ハンサムで…」

 ハンサムと言われて、え?そうか〜なんて祐介がヘラヘラ笑っている。
 おかしいなぁ、若くてハンサムって分かるほど顔見えなかったと思ったけど…

「…それに、思ったより痩せてました。」

「「え??」」

 一同が一斉に声をあげた。藤原くんは一人で皆を見回してキョトンとしている。
 昨日の祐介かなりクッションを詰め込んでパンパンだったよなぁ…
 う〜ん、藤原くんが想像していたサンタクロースってどれくらい太ってるんだろう??


「なんだ、まだプレゼントを開けていないじゃないか」

 悟が気を取り直して藤原君に声をかける。

「それじゃあ、まずはそれぞれのプレゼントをあけましょうか。」

 香奈子先生の提案で皆でツリーの下に積んであった自分宛のプレゼントを開けることになった。

 辺りは紙がガサガサいう音と「わぁ」とか「おぉ」とか言う感嘆の声で溢れた。

 佳代子さんは素敵なティーセットを見てウットリとしている。香奈子先生は優美な香水瓶を見て少女のように喜んでいる。悟は僕からの革手袋を手に嬉しそうに微笑みかける。藤原くんはお母さんからの手編みのマフラーと帽子を早速身に付けている。
 
そして、当然のように祐介へのプレゼントもあって、それが図ったように全部クマ関連のグッズだった。中でも祐介が複雑な表情をしたのが、つま先の部分がクマの頭になっているスリッパだ。たぶん藤原くんからのものだろう。心配そうに祐介の方を伺っている。

 その視線に気がついたのか、祐介はスリッパを履いてみせて、ニッコリ笑って「温かいなと」藤原くんに言った。

 藤原くんは照れたように頬を染めて抱いていたプレゼントのテディベア(間違いなく祐介からだろう)に鼻を埋めた。

 めっちゃ可愛い〜v 思わず抱き締めたくなっちゃうよね、祐介?と思ったら、

「あぁ〜んもう、なんて可愛いの!!!」

 と香奈子先生がクマごと藤原くんを抱き締めほっぺたにチュっとキスをしている。

 あ!香奈子先生ずる〜〜い!!!

 耳まで赤くしてワタワタ慌てている藤原くんを悟が救出して、ついに僕らは最後まで開けていなかった、靴下に入ったプレゼントを開けるのを見守ることになった。
 藤原くんは包み紙を破かないように慎重に開けていく。そして中から出てきたものは…

「フルートだ…」

「よかったね藤原くん」
「はい。これで先生のを借りなくてすみます」

 藤原くんはこの家に来てから僕らの影響でフルートを始めたんだけど練習のときはいつも僕の予備のを使っていて、ずっと自分のを欲しがっていたんだ。
 でも、上手くなってビックリさせたいから、お母さんには内緒にするって言っていたのに…

 チラリと香奈子先生と目があったとき意味ありげにウィンクされた。どうやら香奈子先生が一枚噛んでいるみたいだ。先生の事だから、抜かりなく藤原くんのお母さんには秘密が守られているだろう。

 ふと何気なく、藤原くんの靴下をいじっていると、中でカサっと紙の擦れる音がしてつま先の部分にまだ何かが入っている感触がある。何だろう柔らかい。

 その時僕と祐介が声を発したのはほぼ同時だった。

「ねぇ、藤原くん。くつしたの中にまだ何か入っているよ。」

「あれ、まだ開けていないプレゼントがあるぞ。」

 え…・?!

 頭の中で警報がした。僕は、靴下の中に手を突っ込み手に触った紙を引っ張り出した。

 出てきた紙はカードだった。カードに書かれている文字が目に入った。


 素敵なプレゼントをありがとう “H”


 藤原くんを見ると、見る見る間にボロロと大粒の涙がこぼれおちた。
 靴下のつま先の部分に入っていた柔らかいものは…

 グ○ゼのパンツ…(@薔薇刺繍入り)
 しかもご丁寧に藤原くんの名前までマジックで書かれている。



 悟はテキパキと本署に電話をかけて鑑識の手配をしている。

「藤原くん……パンツ盗まれちゃった…?」

 藤原くんは顔を真っ赤にしてただボロボロと泣くばかりだ。
 結局、藤原くんが見たサンタクロースは怪盗Hだったんだろう。サンタクロースは「恋人」じゃなくて「変人」だったなんて…
 
 可愛そうに…
 楽しみにしていたクリスマスがこんな終わり方だなんて。


 電話を終えた悟が祐介を呼んで藤原くんの部屋に行こうとした、でも祐介が微動だにしない。
 祐介は下を向いたまま顔色は青ざめて、手に持った何かを見つめている。そしてその手はふるふると震える。
 そういえば、さっきプレゼントがどうとかと言っていたような…

 祐介の手に握られている物を覗き見ると、それは黒地に深紅の薔薇模様の布だった。
 

「祐介…まさか…・」



「お…俺の……俺のパンツが〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」



 やっぱり…



 結局その日は皆にとって、いろんな意味で忘れられないクリスマスになってしまった。



おわり



 え?

 何で怪盗Hが葵ちゃんのお部屋にお邪魔しなかったかって?

 もちろん、行きましたよ、入り口まではね。
 しかし、彼のポリシーは…

『かわい子ちゃんが穿いているパンツを脱ぎ立てホヤホヤで頂く。』

 脱ぎ散らかされた服の中から抜き取るというのは主義ではないのです。(笑)




 そして、某33階の隠し部屋の陳列棚の前では、日本経済界の重鎮が本日の戦利品を肴にワインを傾けていた。

「葵くんと桐生警視のものは頂けなかったが、代わりにいいものを見せてもらえたし、いいクリスマスだったな。次は普通仕様のグ○ゼを頂くとするか。ふふふふふはははははは…」

 あーちゃんのグ○ゼに安息の時はまだ来ないようである。

 ちなみに、薔薇刺繍入りのグ○ゼがその後どうなったかというと、押収され筆跡鑑定の為に鑑識に廻された後、警察の保管庫に眠っている。










で、お約束の

「カ〜ット!」

監督:みなさんお疲れ様でした〜

葵:お疲れ様です。でも監督〜クリスマスから作りはじめるクリスマスものっていうのはどうかと思うんですが?

悟:そうそう

監督:だって〜サンタクロース信じるあーちゃんスッゴク萌えるでしょ〜
止まらなかったのよ〜〜!!それに、相棒がグ○ゼを取りかえしたいってうるさくせっつくし〜

悟:萌えるって…(ていうか、語尾伸ばすのをやめろ!可愛くないから!)

葵:それは分かるけどさ(え?!:悟)、いくらなんでも、藤原くん可哀相だよ。
(と未だに泣いている彰久を見やる)

監督:あの泣き顔がたまんないのよねぇ…(ウットリ)

葵、悟:((腐ってる、この女…))

監督:ところでさ、怪盗Hは葵ちゃん達の部屋でどんないいものを見せてもらったのかなぁ? 脱ぎ散らかされた服ってことは、何にも着ていなかったのよね〜(ニヤリ)

葵、悟:………(赤面)

祐介:しくしくしくしく……・(T_T)(いいものって何?葵ぃ〜!!)

監督、葵、悟:あ……・・Σ(゜゜)(忘れてた!一番哀れなやつを…)

               *********

 TONTO監督談:これはクリスマスに、あーちゃんがまだサンタを信じていたら可愛いよなぁ、というだけで書いた、私からあーちゃんへの限り無い愛(?)の結晶ですわ(おい)
 しかし、クリスマスにこんな腐ったこと考えている私って、終わってますね(笑)


監督、ありがとうございました〜!

さて、お話に萌えて作ってしまいました!
お待ちかね?!
あなたのヘンタイ度をチェック!萌えどころ占いv
『ここに萌えた!』っていうところの下の部分を反転させてみて下さいね〜。
by もも♪





*サンタクロース祐介に萌えたアナタ。
今すぐ『祐介ならなんでもいいの』という考えを捨てましょう。
このままでは『ふびんぼう神』が取り憑きます。
ヘンタイ度0%。ただし不憫度100%



*藤原くんのアップリケつきグ☆ゼに萌えたアナタ。
可愛いもの好きのアナタは意外にまっとうなヘンタイさんでしょう。
ヘンタイ度25%。
ただし、一歩踏み外すと簡単に『怪盗H』化します。ご注意を。



*悟の『全身タイツ』に萌えたアナタ。
一見良識派のように見えて実はかなり蝕まれているという隠れヘンタイ。
ある意味世間的には一番迷惑なタイプかも知れません。
ヘンタイ度50%


*脱ぎ散らかした葵のぱ☆つに萌えたアナタ。
ブツに萌えるのは非常に危険な兆候です。
せめてベッドの中身に萌えましょう。
ヘンタイ度75%



*とりあえず怪盗Hに萌えてみた…というアナタ。
きっぱり言いましょう。
%を提示するまでもなく、骨の髄までヘンタイです。おめでとう。

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